忘れてはならない。大飯の再稼働を、読売、産経、福井新聞は賛成した。
http://ajimura.blog39.fc2.com/blog-entry-2281.html …
以下転載
2012-06-10(Sun)
大飯原発再稼働表明 (その2)
全国紙・地方紙の社説・論説 読売・産経・福井の他は批判
脱原発依存はどこへ、理解得られぬ、あまりに前のめりである
不安に応えたと言い難い、「結論ありき」否めない、強引な論理承服できぬ
「アリの一穴」許してはならぬ、時計の針を元に戻すな、神話の盲信を繰り返すのか
野田首相の大飯原発再稼動表明に対する各紙の主張は、批判が圧倒的だ。
<社説・論説>
朝日)首相会見―脱原発依存はどこへ(6/9)
読売)大飯再稼働へ 国民生活を守る首相の決断(6/9)
産経)大飯原発と首相 再稼働の決断を支持する(6/9)
東京)「大飯」再稼働会見 国民を守るつもりなら(6/9)
北海道新)大飯再稼働 理解得られぬ首相説明(6/9)
東奥日報)国民の理解得られるのか/首相の再稼働判断(6/10)
岩手日報)首相の再稼働宣言 「結論ありき」否めない(6/9)
新潟日報)大飯原発再稼働 あまりに前のめりである(6/9)
福井新聞)大飯再稼働 首相会見 ぶれない原子力政策必要(6/9)
京都新聞)首相再稼働決断 強引な論理承服できぬ(6/9)
神戸新聞)再稼働表明/首相の脱原発方針どこへ(6/9)
山陽新聞)原発再稼働 首相会見では不安拭えぬ(6/10)
愛媛新聞)大飯原発再稼働 「アリの一穴」許してはならぬ(6/7)
徳島新聞)大飯再稼働表明 安全性欠いた拙速判断だ(6/10)
高知新聞)【大飯再稼働】脱原発依存はどうなった(6/10)
西日本新聞)首相再稼働判断 不安に応えたと言い難い(6/9)
南日本新聞)[原発再稼働発言] 安全性に不安を残した(6/10)
沖縄タイムス)[大飯原発再稼働]時計の針を元に戻すな(6/10)
琉球新報)原発再稼働表明 神話の盲信を繰り返すのか(6/10)
以下引用
朝日新聞 2012年6月9日(土)付
社説:首相会見―脱原発依存はどこへ
原発政策を主題にした野田首相の記者会見は初めてだった。それが、こんな内容なのか。
関西電力の大飯原発3、4号機を再稼働させる。停電が起きれば、命の危険にさらされる人が出る。動かさないと電気代も上がる。企業や家庭に影響が出る。空洞化も加速する。首相は脅さんばかりに語った。
さらに原発が重要な電源であり、夏場の限定稼働では国民生活を守れないと踏み込んだ。
いったい、「脱原発依存」はどこへ行ったのか。
根幹となる中長期的な原発政策について、首相は国民に選択肢を示し、「8月をめどに決めたい」としただけだ。
当面、最低限の再稼働が必要と判断したとしても、中長期の方向性については揺らぎがないことを国民に説明するのが、首相がとるべき姿勢だ。
新たな原発はつくらない。40年たった原発は廃炉にする。これまでさまざまな場面で首相や関係閣僚が言及してきた脱原発依存への具体的な道筋には一切触れなかった。
これでは、政権の原発政策が大きく転換したと受け止められても仕方がない。
会見は、福井県の西川一誠知事に押し切られた形で設けられた。地元同意の条件として、原発の必要性を首相が直接、国民に説明するよう求めたからだ。
背景には、原発が減ることで地元の経済や財政が回らなくなることへの危機感がある。
しかし、原発への依存度を減らしていくことは政権の大方針だったはずだ。そこに言及すると、地元が納得しないというなら、再稼働のほうをあきらめるべきだろう。
福井県の姿勢にも、首をかしげたくなる。
昨春以降、政府に新たな安全基準を示すよう求め、足元の安全対策を見直させた意義は大きい。これまで、さまざまな苦労を抱えながら、原発との向き合い方を模索してきた自負があることもわかる。
だが、新たな原子力規制機関ができるまでの監視態勢に、福井県以外の周辺自治体を同列に参加させないことを再稼働の条件にする、とまでなると、度を超している感は否めない。
京都や滋賀の知事をはじめ周辺自治体が原発の安全性確保に関与を求めるのは当然だ。
両府県や大阪府・市が求める期間限定の再稼働についても、西川知事は「スーパーの大売り出しではない」と切って捨て、首相も一顧だにしなかった。
野田さん、本気で原発を減らす気があるんですか。
(2012年6月9日01時31分 読売新聞)
大飯再稼働へ 国民生活を守る首相の決断(6月9日付・読売社説)
野田首相が福井県にある大飯原子力発電所3、4号機の再稼働に強い決意を表明した。
首相は記者会見で「原発を止めたままでは、日本の社会は立ちゆかない。原発は重要な電源だ」とし、「国民の生活を守るため再稼働すべきというのが私の判断だ」と強調した。
首相が原発を日本に欠かせない電源だと、明確に位置づけた意味は大きい。当面のエネルギー政策で、「原発ゼロ」の路線は回避される方向となろう。
福井県の西川一誠知事は、再稼働に同意する条件として、首相が原発の必要性を国民に説明することを求めていた。福井県が了承する環境は整ったと言える。
福井県とおおい町が早期に再稼働に同意し、手続きが加速するよう期待したい。
もちろん再稼働には、原発の安全確保が重要である。政府は全国の原発で津波対策を実施し、大飯原発はストレステスト(耐性検査)も終えた。原子力安全委員会がテスト結果を了承している。
大飯原発を再稼働する際は、経済産業副大臣らが現地に常駐する特別な監視体制も敷く。
首相は「実質的には安全は確保されている」と述べた。政府が1年以上をかけて安全対策を講じてきた点は、評価すべきだ。
西川知事が同意を見送っている背景には、周辺自治体の姿勢への反発があるのだろう。
特に、福井県から電力供給を受ける大阪市の橋下徹市長や、京都府と滋賀県の知事が提案している「夏季限定」の再稼働案を、西川知事は強く批判している。
電気が足りない時期だけ原発の運転を求めるのは、ご都合主義にほかならない。この点について首相が、「夏限定の再稼働では国民生活は守れない」と述べたのは、妥当な認識である。
政権党である民主党の国会議員117人が、「今年の夏は節電で乗り切る」などとして、首相らに再稼働への慎重な対応を求める署名を提出したことも問題だ。
首相は「突発的な停電が起これば、命の危険にさらされる人もいる」とした。産業空洞化や雇用喪失への懸念も示した。なぜこうした危機感を共有できないのか。
署名には、小沢一郎元代表のグループなど、消費増税に反対する議員が多く加わっている。
社会保障と税の一体改革を進める政権を、からめ手からゆさぶる狙いだろう。目の前の電力危機を回避する再稼働を、政争の具にしてはならない。
産経新聞 2012.6.9 03:10
【主張】大飯原発と首相 再稼働の決断を支持する
野田佳彦首相の明確かつ力強い決意表明だ。
関西電力大飯原発3、4号機の再稼働問題で記者会見した首相は「原発を止めたままで日本の社会は立ちゆかない」と語った。原発を国家と国民生活を支える不可欠な電源と位置づけた上で、福井県の理解を求め、今後も原発の利用を続ける姿勢と覚悟を国民に示した。
「国民の生活を守る責務」から自らの責任で大飯原発再稼働が必要とした首相の決断を高く評価したい。エネルギー安全保障や電気料金値上げ抑制にも欠かせない。福井県はこの決意を受け止め、再稼働の早期実現に向けて政府とともに全力をあげてもらいたい。
今夏の関電管内の電力需給は再稼働なしに猛暑を迎えた場合、14・9%の電力不足に陥る。関電は7月から利用者に15%以上の節電を求め、余力がある中部や中国など隣接電力会社の融通も仰ぐ。計画停電も準備する非常事態だ。
こうした節電や融通頼みでは、電力の安定供給などおぼつかない。地元の産業界からも「工場の操業計画が立てられない」など不安の声が上がっている。このままでは工場の海外移転などで一段の産業空洞化を招く恐れがある。
首相会見は、西川一誠福井県知事が「国民向けメッセージ」を求めたのに応じたもので、「関西を支えてきたのが福井県とおおい町だ。敬意と感謝の念を新たにしなければならない」と訴えた。
期間限定の再稼働を求める橋下徹大阪市長らに対しても「夏場限定の再稼働では、国民生活は守れない」とクギを刺した。大阪市などに批判的だった西川知事にも、首相の姿勢は伝わったはずだ。
今後の焦点は、県側の対応だ。停止期間が長かった大飯原発は運転調整に時間が必要で、本格的な再稼働までに1基あたり3週間程度かかる。県原子力安全専門委員会や県議会、西川知事は残る手続きを早急に進めてほしい。
また政府は、大阪市などを含む関西広域連合や、再稼働を拒む反対勢力などに対しても毅然(きぜん)として説得する姿勢が求められる。
菅直人前首相の浜岡原発停止要請など場当たり的な政策は、原発と長年共存してきた立地自治体の不信感を招いた。首相会見を自治体の信頼を回復する契機とすべきだ。大飯だけでなく、東京電力柏崎刈羽など他の原発の速やかな再稼働につなげる必要がある。
東京新聞 2012年6月9日
【社説】「大飯」再稼働会見 国民を守るつもりなら
国民の生活を守るため、野田佳彦首相は関西電力大飯原発3、4号機を再稼働させるというのだろうか。国民は知っている。その手順が間違っていることを。このままでは安心などできないことを。
これは原発再稼働への手続きではなく、儀式である。
西川一誠福井県知事の強い要請を受け、従来の発言をなぞっただけ、西川知事にボールを投げ返しただけではないか。誰のための記者会見だったのか。いくら「国民の生活を守るために」と繰り返しても、国民は見抜いている。そして儀式には、もううんざりだ。
国民は、首相の言葉をどのように受け止めたのだろうか。
「スケジュールありき、ではない」と首相は言う。しかし、長期停止した原発のフル稼働には六週間ほどかかる。そのような再起動の手順を踏まえた上で、小中学校が夏休みに入り、電力需要が本格的に高まる前に原発を動かしたいという、“逆算ありき”の姿勢は変わっていない。
経済への影響、エネルギー安保など、原発の必要性は、執拗(しつよう)に強調された。だが国民が何より求める安全性については、依然置き去りにしたままだ。
「実質的に安全は確保されている。しかし、政府の安全判断の基準は暫定的なもの」という矛盾した言葉の中に、自信のなさが透けて見えるようではないか。
会見で新たな安全対策が示されたわけでもない。緊急時の指揮所となる免震施設の建設や、放射能除去フィルターの設置など、時間と費用のかかる対策は先送りにされたままである。これでどうして炉心損傷を起こさないと言い切れるのか。どんな責任がとれるのか。首相の言葉が軽すぎる。
未来のエネルギーをどうするか。脱原発依存の道筋をどのように描いていくか。次代を担う子どもたちのために、国民が今、首相の口から最も聞きたいことである。それについても、八月に決めると先送りしただけだ。
「関西を支えてきたのが福井県であり、おおい町だ」と首相は言った。言われるまでもなく電力の消費者には、立地地域の長い苦渋の歴史を踏まえ、感謝し、その重荷を下ろしてもらうためにも、節電に挑む用意がある。ともに新たなエネルギー社会をつくる覚悟を育てている。そんな国民を惑わせ、隔ててしまうのは、その場しのぎの首相の言葉、先送りの姿勢にほかならない。
北海道新聞 2012年6月9日
社説:大飯再稼働 理解得られぬ首相説明(6月9日)
関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)について、野田佳彦首相が記者会見を開いて「国民生活を守るため再稼働すべきだ」と表明した。
首相は関西の夏場の電力事情が深刻なことを強調し、「今原発を止めてしまっては日本社会が立ち行かない」とする一方、「福島第1原発事故時のような地震や津波が起きても事故を防止できる」と断言した。
これで国民が安全だと納得できるだろうか。
首相が再稼働の根拠としたのは、経済産業省原子力安全・保安院がまとめたあくまで「暫定的」な安全基準である。
しかし、すでに国民の信頼を失っている保安院がわずか2日間でまとめた基準を適用したところで、再稼働の根拠にはなり得ない。首相の判断は見切り発車にすぎない。
国際的な基準に照らしても不十分だ。
国際原子力機関(IAEA)は異常事態の防止に加え、過酷事故が起こり得ることを前提に、その防災対策を求めている。
大飯原発では、事故時の拠点となる免震棟や、放射性物質の大量放出を防ぐフィルター付き排気装置の設置予定は3年後だ。
「想定外」への備えができていない状態で、事故の可能性を否定して再稼働に突き進むとすれば、「安全神話」と五十歩百歩である。
首相は中長期的には原発依存度を可能な限り減らす方針も示したが、再稼働に前のめりの姿勢は「脱原発依存」の本気度を疑わせる。
原発の寿命を原則40年とする規制法がまだ審議中とはいえ、当事者能力のない保安院が、稼働40年を迎える関電美浜原発の運転延長を了承した。こんなことが起きるのも政権の軸足が定まらないからだ。
政府は4月に大飯原発の再稼働を妥当と判断して以来、福井県の説得に乗り出したものの、同意を得られずにきた。
このため、福井県側の「首相が国民に直接、表明することが安心につながる」という求めに応じ、急きょ首相が会見で再稼働の必要性を訴えたのが実態だ。
いわば会見は福井県の顔を立てる手続きだった。これでは首相の言葉は、原発の安全性に不安を抱く国民の胸に届かない。
新たな規制機関として、ようやく原子力規制委員会が設立される見通しとなった。なぜ、規制委の発足を待てないのか。しかも福島の事故原因の解明は道半ばである。
再稼働の是非を問う前に、首相はこうした国民の根本的な疑問に誠実に向き合うべきだ。
東奥日報 2012年6月10日(日)
社説:国民の理解得られるのか/首相の再稼働判断
「国民生活を守るため、再起動すべきだというのが私の判断だ」。関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働をめぐり野田佳彦首相が8日、記者会見で表明した。
福井県の西川一誠知事が同意の条件として、首相に原発の重要性を表明するよう求めていたのに応えた。西川知事は前向きに評価している。今週中にも地元同意を経て、首相や関係閣僚らが最終判断する段取りのようだ。
再稼働の判断理由として首相は、関電管内の電力不足を指摘し、計画停電や電気料金高騰による生活や経済への影響回避を強調。「今、原発を止めてしまっては日本の社会は立ち行かない」と訴えた。
安全性については「福島第1原発事故の時のような地震や津波が起きても事故は防止できる」と述べたものの、政府が安全の根拠とする判断の基準は暫定的なものだ。設置が遅れている新たな安全規制組織が発足すれば規制を見直すという。「暫定的な安全」で再稼働に向かい、国民に安心しろというのは無理があろう。
首相の説明は、福井県のメンツを立てただけで国民に向けたメッセージとしては不十分だ。「再稼働ありき」が見え見えで、国民の理解は得られるのか。
暫定的な基準に従い政府が是認した大飯原発の安全対策では、事故を想定した放射性物質除去フィルター設置や緊急時の指揮拠点となる免震棟建設などは3年後だ。新規制組織ができるまで監視体制も急ごしらえで組織する。不完全な基準や対策で再稼働へ向かうことになる。見切り発車と言わざるを得ない。
一方で首相は「(関西の自治体が求める)夏場限定の再稼働では国民の生活は守れない」としたほか、エネルギー安全保障などを挙げ「原発は重要な電源」と踏み込んだ。
原発を新増設せず原則的に運転40年で廃炉にする-。首相や政府関係者がこれまで示している原子力政策の方向性だ。中長期的な「原発ゼロ」も視野に入る方向性だが、原発の重要性をめぐる首相の言葉は「脱原発依存」から後退するような印象を受ける。
検討中のエネルギー政策見直しについて首相は、政府として選択肢を示し国民の議論を経たうえで「8月をめどに決めたい」と述べるにとどめた。「脱原発依存」へ向けあらためて方針を明確にするべきだ。
福島の事故は実質的に収束していない。事故の原因究明を踏まえた新たな知見を反映した安全基準づくりもこれからだ。短期的には原発を再稼働させるのが現実的な道としても、安全性の確保が大前提なのはいうまでもない。
首相の説明は原発の必要性ばかりが強調された感が強く、国民の不安には応え切れていない。福島の事故を経験し原子力に対する国民の目は厳しくなっている。片や原子力行政も信頼を失っている。再稼働は国民の理解を得ながら慎重に進めるべきだ。
岩手日報 (2012.6.9)
論説:首相の再稼働宣言 「結論ありき」否めない
関西電力大飯原発(福井県)の再稼働に向け、野田佳彦首相は8日、記者会見で必要性を表明した。事実上の再稼働宣言であり、西川一誠福井県知事の判断を経た上での実施が確実となった。
説明や手続きをめぐって二転三転したとはいえ、一連の動きを見ると、政府が「再稼働ありき」の立場だったことは明らかだ。この間、一方では、政府が将来の原発政策に確たる指針を持っていないことも露呈した。
再稼働は、東京電力福島第1原発事故が実質的には収束せず、原因究明も途上の中で進められた。事故の教訓を真に受け止めるなら、再稼働にはより慎重になったはずだ。
それでも突き進んだ動きには、電力需要が急増する夏場を控え、電力不足を招きかねないという危機感が反映されている。当初は反対論も強かった関西広域連合が容認する形となった理由だ。
いわば「急場をしのぐため、やむなし」の意味合いがある。このため、同連合内からは「夏限定」の提言も出されている。
一方、今回の再稼働には、国や電力業界の思惑も透けて見えるようだ。大飯原発を突破口にして、次々に容認していくのではないかということだ。
そう思うのは、福島事故後に「脱原発」の世論が高まっている中で、原発政策について現政権が明確な姿勢を示していないからだ。
政府のエネルギー・環境会議がまとめた中間報告案は、「エネルギーの安全保障や多様化と両立できる形で低減の道筋を具体化すべきだ」などと有用性をにじませる内容となっている。
2030年の原発比率の選択肢には、福島事故前より高い「35%」が一時、検討段階で入っていた。結局は除外されたが、定まらない政策を示す一例といえる。
そんな中での再稼働の方向。大飯原発について安全確保に万全を期すと同時に、きちんとした再稼働の基準づくりや規制組織の構築を急ぐ必要がある。
再稼働をめぐっては、責任の所在についての問題も浮かび上がった。国、地方、電力会社それぞれの関係だ。例えば原発立地の「地元」とはどこなのか。法的根拠を含め検討する必要が浮上した。そもそも、「判断のボール」を国と福井県とが押し付け合ったのは、あいまいな責任体系だからではないか。
ようやく民主、自民、公明の3党が7日、原発の安全規制や防災対策に関し、立地自治体や周辺自治体と国、電力事業者との連携を法的に位置付けることにした。自治体の意見をきちんと聞きながら進めてほしい。
新潟日報 2012年6月9日
社説:大飯原発再稼働 あまりに前のめりである
野田佳彦首相が8日夕、記者会見し、関西電力大飯原発3、4号機を再稼働すべきとの判断を示し、国民に理解を訴えた。
首相はその理由として「国民の生活を守るため」を挙げ、「いま原発を止めてしまっては日本の社会は立ち行かない」「夏場だけの問題ではない。わが国のエネルギー安全保障からしても原発は重要電源」とまで踏み込んだ。
発言は、菅直人前首相が提起し、自身の首相就任時に継承を明言した「脱原発依存」路線から大きく転換したものといえる。
福島第1原発事故以来、安全神話は崩壊し、国、電力会社の信頼も地に落ちた。国民の間に「脱原発」のうねりが起きている。
首相も会見で、原発に関し「国論を二分する問題」と何度も口にした。にもかかわらず「(再稼働しても)福島のような事故は起きない」「結論を出すのが首相としての私の責務。国政を預かる者として責務の放棄はできない」と大見えを切った。
あまりに前のめりである。
いまだ福島原発事故は収束していない。事故原因の検証も道半ばだ。新たな原子力規制体制も発足していないのである。
与党民主党内部からさえ江田五月元参院議長ら117人もの議員が「再稼働の再考」を求め、署名を官邸に提出している。
加えて地質の専門家から、大飯原発の敷地内の「破砕帯」が近くの活断層と連動して動き、地表がずれる可能性が新たに指摘されてもいる。
こうした中で「国民の生活を守るために再稼働する」という政治判断に正当性はあるのか。法的にも疑問符が付く。
首相の国民向け会見は、福井県の西川一誠知事が大飯原発再稼働に同意するための条件として求めていたものだった。
当初政府側はこれに難色を示していたのだが、一転、首相が応じたのは、それだけ切羽詰まっていたということだろう。
原発の再稼働には約3週間が必要とされる。夏場の電力ピーク時に間に合わせるには、いまがぎりぎりのタイミングだった。
首相は「電力不足が数%なら節電努力すれば何とかなるが、15%という需給ギャップは昨年の東日本でも経験のない高いハードル」と強調してみせた。
また「突発停電となれば命の危険もある。働く場もなくなる。計画停電でも日常生活は大きく混乱する」と語った。まるで恫喝(どうかつ)だ。仙谷由人元官房長官の「真っ暗な生活になる」「日本は集団自殺」発言と同じではないか。
さらに問題なのは、8月にも決まるわが国の新たなエネルギー政策について、会見での質問に答える形で「(電源の)ベストミックスを考えたい」と言及している点だ。
これでは、はなから原発に何割かを依存すると言っているに等しい。
安全より経済を優先して福島の事故は起きた。そのことを首相はすっかり忘れたようだ。
福井新聞 (2012年6月9日午前7時49分)
【論説】大飯再稼働 首相会見 ぶれない原子力政策必要
野田佳彦首相は記者会見し、関西電力大飯原発3、4号機の再稼働(福井県おおい町)について「国民生活を守るために再稼働すべきだというのが私の判断だ」と表明。夏場の電力確保だけでなく、エネルギー安全保障や日本経済に不可欠と述べ、関西を支えてきた福井県やおおい町に「敬意と感謝の念」を新たにした。
「首相が国民に向けてはっきり責任を持って言うべき」とする西川知事の厳しい注文に言葉を尽くして応えた形だ。知事は同意に向けた障害はなくなり慎重に所定の手続きを進める。政府は再稼働準備を急ぐだろう。
国会では首相の政治生命が懸かる社会保障と税の一体改革関連法案の修正協議が始まり、緊迫した状況で異例の会見だ。だがこれも国の地元に対する配慮の欠如、原子力政策をめぐる政府の一貫性のなさに起因していることを肝に銘じるべきだ。
福井県は基幹電源に位置づける原発に40年余り貢献してきたはずだが、東京電力福島第1原発事故で政府、国民世論も「脱原発依存」に一変。地元は置き去りにされてきた。政府の姿勢を明確にし、リーダーシップが問われる首相の「覚悟」を求めるのは当然のことであろう。
県は原発事故以来、緊急安全対策や安全基準を求め、原子力安全専門委員会で問題点を詳細に検証、その都度、追加対策を求めてきた。県が必要とした「特別な監視体制」は、福島の事故を教訓に、原子力災害対策特別措置法に基づく現地対策本部長に副大臣を充て、即応可能な体制を取るためである。
こうした県の対応は、ひたすら安全確保の実効性を追求してきたものだ。ぶれることなく立地自治体としての責任遂行に努めてきたといえる。
それに比べ政府や消費地である関西圏の対応はあまりに問題が多く、身勝手ではないか。「安全は不十分」と政府を批判しながら、電力不足の回避へ再稼働を「容認」し、かつ「夏場限定」を要求する関西の首長。当事者能力が疑われる言動は世論を背景にし、結果として立地地域悪者論にすり替えている。
野田首相は4日の内閣再改造後の会見で「原発は日本の発展に必要」と強調した。同じ趣旨の発言をしてきており、政府は「これで十分」と先を急いだ。それでもなお踏み込んだ発言を要求する西川知事の主張は想定外だったのだろう。しかし、これまでの会見は国民に正対したものではない。原発に対する不信や不安感が強まり、明確なメッセージが必要だった。
知事は「長期的にはエネルギー源の多角化が検討されるが、中期的には原発は引き続き必要」としている。政策面でどう反映されるのか、首相は「8月をめどにエネルギー政策を決める」としか述べなかった。
夏限定の再稼働を明確に否定した首相だが、関西圏をどう説得するのか。本県の「要望丸のみ」で会見したものの、腰の定まらない民主党政権、言葉は丁寧だが具体性に欠ける首相の姿勢に大きな変化は見られない。
世論調査では再稼働反対が依然50%を超えている。再稼働の同意はリスクが大きい。原発は地元を支えてきたが、今後進むも退くもいばらの道だ。国が地元と同じ「現場感覚」を持たない限り、地域は苦難にさらされたままである。
[京都新聞 2012年06月09日掲載]
社説:首相再稼働決断 強引な論理承服できぬ
関西電力大飯原発(福井県おおい町)3、4号機について、野田佳彦首相がきのう記者会見し、再稼働させることを表明した。
首相は「全ての電源を失っても炉心損傷に至らない」と安全が確保されていることを強調した。計画停電や電気料金高騰による国民生活への影響を避けるべきと、再稼働を判断した理由を説明した。
再稼働を電力需要が高まる夏季に限定しないことも明言した。
その一方で、監視体制強化など京都、滋賀の両府県知事による提言や、関西広域連合が求めている安全性に関する声明への言及はなかった。安全性を判断した根拠について、明確な説明もなかった。
この状況で、再稼働に踏み切るのは納得がいかない。首相は「私の責任」を強調するが、万一の事故の際、どんな責任を取るつもりなのだろうか。
大飯原発の安全性について首相は「特別な監視体制を置く」と強調した。しかし、これまでに関電が行った対策の多くは応急的で、防潮堤や免震重要棟の設置にも着手できていない。安全性確保というには、あまりに根拠が乏しい。
事故が起きれば被害が及ぶ京滋からの要望に耳を傾けていないのも不安を増幅させる。
京都府の山田啓二、滋賀県の嘉田由紀子両知事は、「特別な監視体制」に両府県を加えることや、原発から半径30キロ圏の緊急防護措置区域(UPZ)に入る京滋の法的位置づけなどを求める再提言を行ったばかりだ。
しかし、首相が考える「地元」に京滋は入っていないようだ。
そもそも、きのうの会見は「再稼働には首相の明確な意思表示が必要」とする西川一誠福井県知事の要請で行った。再稼働に向け、立地自治体の理解の取り付けに躍起になっている姿が見て取れる。
事故が起きた際、立地自治体だけでなく、京滋住民をどう避難させるかの対策もこれからだ。
住民の命より経済活動が優先なのだろうか。事故は起きないから避難計画は後回しというのでは、福島第1原発事故の教訓は何ら生かされていないことになる。
野田首相は、安価で安定した電力の供給がなければ「日本は立ちゆかない」と述べた。本来は別々に考えるべき安全性と電力供給の問題を混同させている。
安定した電力供給が必要なら、火力発電の増強など打てる手があったはずだ。供給努力を怠ったまま2度目の夏を迎え、強引に再稼働させるのは、あまりに国民を見くびっていないか。
政権から再稼働のお墨付きを得た形の福井県も判断が問われる。県内にさまざまな声があることは分かるが、県民の命が本当に守れるのか。ここは熟慮が必要だ。
神戸新聞 (2012/06/09 09:07)
社説:再稼働表明/首相の脱原発方針どこへ
「国民生活を守る上で再稼働は欠かせない」「夏場限定と考えない」「引き続き、原発は重要なエネルギー源」
関西電力大飯原発3、4号機の再稼働問題で、野田佳彦首相はきのう、あらためて再稼働の必要性を表明した。
先月末の関係閣僚会合で首相は「私の責任で判断する」と語った。立地自治体の福井県やおおい町にボールを渡し、同意を取り付ける考えだった。しかし、西川一誠知事は納得しなかった。
政府は一方で、安全性の判断基準を「暫定的な基準」とし、周辺自治体は再稼働を「限定稼働」ととらえる。知事は状況にあいまいさを残したままでは同意できないとし、「再稼働の必要性を、首相が国民に直接表明することが安心につながる」と再度、ボールを投げ返した。
それに応える首相の再表明だった。
首相はまず、計画停電や突発停電で国民生活や経済活動に混乱が生ずる事態は避けなくてはならないとし、再稼働は必要と語った。その際、非常用電源が失われ、炉心が損傷することはないと専門家会議などで確認したとし、福島のような事故は起きない、と断言した。
「限定稼働」は、きっぱり否定した。夏場の再稼働だけでは小売店や中小企業などへの影響が大きく、国民生活を守れないという理由だ。大飯以外の再稼働については、新しい規制組織の下で個別に安全性を判断して決めるとした。
さらに、原発の将来について、中長期の依存度を減らす努力を重ねるとする一方で、引き続き欠かせないエネルギー源だと強調し、8月をめどに政府のエネルギー戦略をまとめると語った。
原発維持を強くにじませる内容といえる。首相が就任時に表明した「脱原発依存」方針は、どこへいった。
首相表明を受け、知事らは来週中にも県原子力安全専門委員会を開き、同意手続きに入る。結果を踏まえて、政府が最終判断する。
再稼働で、これだけ紆(う)余(よ)曲折したことを政府は重く受け止めねばならない。
京都府と滋賀県は、4月に発表した七つの提言への政府回答を踏まえ、新たな7項目の提言を行った。政府や関電の対応が遅れている項目ばかりだ。民主党内では100人超の議員が現状での再稼働に反対する意思を明確にしている。
首相が国民にどう説明しようと、「見切り発車」の印象は免れない。
再稼働問題は立地県と周辺自治体に埋めがたい溝を残して最終局面に入る。原子力政策の汚点にしてはならない。
山陽新聞 (2012/6/10 9:32)
[社説]原発再稼働 首相会見では不安拭えぬ
関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)について野田佳彦首相が記者会見を開き、国民生活を守るために再稼働が必要だとの考えを明らかにした。首相に意見表明を求めていた福井県の西川一誠知事はこれを受けて再稼働に同意するとみられる。東京電力福島第1原発事故後、初めてとなる原発再稼働は国論を大きく二分したまま実現へ向かいそうだ。
首相は、計画停電や電力料金の大幅な高騰といった日常生活への悪影響を避け、豊かな暮らしを送るために安価で安定した電気の存在が欠かせないと訴えた。安全性に関しては、福島原発事故の時のような地震や津波が起きても事故は防げるとした。橋下徹大阪市長が提案した期間を限っての再稼働は「夏場限定では国民の生活は守れない」と明確に拒否した。
「脱原発依存」を掲げている野田政権だけに違和感が拭えない。
そもそも安全確認の柱となっているのは、安全評価(ストレステスト)の1次評価や、経済産業省原子力安全・保安院がまとめた暫定的な安全基準である。福島の原発事故の検証を十分に反映したものではない。それをもって事故防止を確約したことには疑問があり、原発の安全に対する国民の不安を解消する内容とは言い難い。
会見は、首相が国民に再稼働が必要だと直接表明するよう西川知事が求めたものだ。背景にあるのは、原子力政策に対する政府の姿勢にぶれが目立つことへの福井県側のいらだちである。
菅直人前首相の「脱原発」宣言の後、枝野幸男経産相は「原発は重要な電源だ」と述べた直後に「あくまで短期の話だ」とした。政府の軸足が定まらぬ中、福井県には再稼働に同意した場合、いずれ政府にはしごを外され、批判の矢面に立たされかねないと懸念したのだろう。野田首相は会見で「国の責務」を強調した。地元へ配慮を示したのだろうが、国民の目には再稼働に向けた帳尻合わせの作業に映ったのではないか。結論ありきの姿勢だと批判されてもやむを得まい。
経産省は今夏、新たなエネルギー基本計画をまとめる。原子力発電が占める割合を「0%」「15%」「20〜25%」などとする選択肢が示されているが具体的な作業はこれからだ。福島の原発事故の原因究明もなお調査の途上にある。再稼働はこれらの検討材料がそろった上で判断するのが筋だ。とりあえず今夏の急場を再稼働でしのぐにしても、夏季限定で動かす案を検討すべきではないか。
新たな原子力規制組織の発足も遅れている。不信や不安を抱えたままで再稼働に踏み込めば将来に禍根を残すのは必至だ。他の原発の運転についても、原子力政策のビジョンや安全に関する最新の知見を踏まえて慎重に見極める姿勢が求められる。
愛媛新聞 2012年06月07日(木)
社説:大飯原発再稼働 「アリの一穴」許してはならぬ
政府は関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働方針を固めたが、地元同意の判断は先送りされた。福井県の西川一誠知事が野田佳彦首相に原発の必要性を国民に説明するよう求めたためだ。
政府が原発政策でいまだに地元の信頼を得ていない実態が露呈したと言えよう。そもそも東京電力福島第1原発事故の十分な究明がされておらず、新しいエネルギー政策や安全対策も示さないまま、しゃにむに再稼働へと進む政府に拙速のそしりは免れない。
そうした中で、地元だけが安易に再稼働に同意すれば「悪者扱い」される懸念があろう。西川知事は同意の前提としてエネルギー政策における原発の位置づけの明確化と、再稼働に反対する大消費地関西の説得などを政府に迫っていた。
しかし、「脱原発」か「基幹電源に位置づける」かの国の根幹に関わるエネルギー政策の具体的戦略はまだ示されていない。新たなエネルギー基本計画に盛り込む2030年時点の原発比率についても検討段階だ。なのに原発の位置づけの明示など、どだい無理な話と言わねばなるまい。
野田首相は先月末の関係閣僚会議で「原発は引き続き重要」と発言、知事向けのメッセージを込めたが、空々しいばかりだ。何を根拠にそう言い切れるのか。知事が求める国民向けの説明をしたとしても、説得力を持ち得ない。
首相は「私の責任で判断する」と言うが、万一の場合、どのような責任をとるつもりなのか。首相退陣や議員辞職などで済む問題ではないことを指摘しておきたい。
一方、関西広域連合は再稼働に反対し、政府に安全最優先の要求を突きつけておきながら、事実上の容認姿勢に転換した。再稼働を望まない一般市民の頼みの綱だっただけに、残念でならない。
夏場の電力不足を乗り切る「期間限定」の稼働が条件との立場だが、政府は時限的稼働を否定している。いったん稼働すれば、再び止めるのは至難となろう。甘い対応と言わざるを得ない。
政府は早くも大飯原発の再稼働を想定し、7月から関電管内で求める節電目標を引き下げる検討に入った。本来原発稼働ゼロを前提にした節電目標であり、脱原発依存社会への道筋を見通すはずだったものだ。企業や住民の節電意識が緩むのは避けられまい。
ようやく新たな原子力規制組織発足の見通しが立ったとはいえ、新しい安全基準や再稼働のルールづくりはこれからだ。経済優先でなし崩し的に再稼働を進める手法は看過できない。これを許せば、同様のやり方が大飯原発以外の原発にも広がる「アリの一穴」になりかねない。
徳島新聞 2012年6月10日付
社説:大飯再稼働表明 安全性欠いた拙速判断だ
野田佳彦首相が、関西電力の大飯原発3、4号機を再稼働させる必要性を訴えた。立地自治体である福井県の西川一誠知事の要請に応じて異例の会見を行い、再稼働方針をあらためて表明した格好だ。
首相は「今、原発を止めてしまっては日本の社会は立ち行かない」と強調し、国民生活を守るために大飯再稼働への理解を求めた。3、4号機の運転再開後は、特別な監視体制で安全性を確保するという。
会見を通しての首相説明は、原発再稼働に向けたこれまでの政府方針と変わらないものだった。逆に、国のエネルギー源として原発の重要性に言及することで、立地自治体に配慮する姿勢をにじませた。
国民の暮らしに直結する深刻な電力不足を解消するためとはいえ、安全性への懸念が拭い切れないままでの方針表明である。原発の運転再開に不安を抱く国民にとっては、到底納得できない首相会見だったと言わざるを得ない。
大飯再稼働をめぐっては、電力消費地の関西広域連合が5月末に事実上の容認姿勢を示し、福井県の地元同意を残すだけとなっていた。
だが、今後の原子力政策をめぐる政府方針が一向に明確にならないことから、中長期的な原発の必要性を訴える福井県が不信感を募らせ、同意手続きをストップさせていた。
大飯3、4号機が運転を再開しても、フル稼働するまでには6週間程度が必要だ。再稼働に向けた調整が長引けば、かつてない規模の節電を迫られている関電管内の電力需要期に間に合わなくなる。
関西圏の節電対策が目標をクリアできず、計画停電などの事態に陥れば住民生活に重大な影響が及ぶ。福井県に早期の同意を促すためには、首相が掲げる「脱原発依存」方針との整合性を欠いても、会見で原発の重要性を表明する必要に迫られたというわけだ。
首相会見を受け、止まっていた福井県の同意手続きはきょうから動き始めるという。順調に進めば、首相は今週後半にも大飯再稼働を正式決定する見通しだ。
とはいえ、現時点で大飯原発の安全性を担保しているのは、首相と関係3閣僚が4月に定めた暫定的な安全基準に過ぎない。さらにその基準がクリアできたといっても、東京電力福島第1原発で事故対応の最前線になった免震棟など、これから整備を始める施設や対策は数多い。
緊急時の住民避難も明確に定められていないのが実情である。特別な監視体制で臨むと説明されても、安心できるものではないだろう。
原発の安全規制を一元的に担う新たな組織はいまだ発足しておらず、原発事故の原因究明もなされていない中での性急な動きである。四国電力の伊方原発や北海道電力の泊原発など、今後なし崩し的に運転が再開されていくのではないかと懸念する住民は少なくない。
政府が今全力を挙げるべきは、原発事故で地に落ちた原子力行政への信頼を取り戻すための体制づくりであり、脱原発依存に向けた国の新たなエネルギー政策を一日も早く策定することである。その順序を取り違えた拙速な原発再稼働は、これ以上許されない。
高知新聞 2012年06月10日08時01分
社説:【大飯再稼働】脱原発依存はどうなった
民主党政権は「脱原発依存」の旗を降ろしてしまったのか。そう首をかしげざるを得ない、一昨日の野田首相の会見だった。
関西電力大飯原発3、4号機(福井県)の再稼働をめぐり、首相は「国民生活を守るため再起動すべきだ」と訴えた。焦点の安全性については、「福島第1原発事故時のような地震や津波が起きても事故は防止できる」と強調した。
だが、もし今、大飯原発で事故が起きたとしたら、その対策は十分とは言えないのではないか。
福島の事故では「免震事務棟」が作業拠点となったが、大飯にはない。放射性物質を除去するフィルター付きベント(排気)設備や恒久的な非常用発電機もなく、防潮堤のかさ上げも終わっていない。それらは2013~15年度に完成する予定だ。
大飯原発の敷地内を走る軟弱な断層が近くの活断層と連動し、地表がずれる恐れがあることも指摘されている。事実なら、原発の立地場所として不適格となる可能性がある。
これでどうして安全だと胸が張れるのだろう。
むろん、短期間で施せる事故対策には限りがあろう。仮にできたとしてもそれで絶対安全とはなるまい。
福島の事故の検証作業にもまだ多くの時間がかかる。それが済むまで原発は一基たりとも動かさない、というのも現実的ではないかもしれない。
だからといって、大飯原発の安易な再稼働を国民が認めていないことは、世論調査で5~6割近くが反対していることからも分かる。
大事なのは現状でできる限りの安全対策を急ぐことだ。同時に、最新の知見で分かった断層リスクなどに関しては、発足予定の原子力規制委員会がしっかり評価し直す。そんな取り組みの積み重ねこそが、国民の安心感を醸成することにつながるはずだ。
説明不足
一方で、夏の電力需要期が迫る中、供給不足とそれに伴うリスクをどう最小限に抑えるかも大きな課題だ。
首相は「今、原発を停止すると日本社会は立ち行かない」と主張した。だが、政府や関電の今夏の需給見通しを疑問視する声は根強い。
電力を湯水のように使う現代社会をもっと根本から見直せば、供給余力はまだまだあるのではないか。患者や高齢者ら弱者にしわ寄せを及ぼすことなく、夏場を乗り切れる余地は本当にないのか。
政治判断で再稼働を決めるのなら、国民のこうした疑問に政府は丁寧に答えなければならない。しかし、その責任を十分果たしてきたとは言い難い。
説明不足はエネルギー政策の中長期的な展望についても同じだ。
野田首相も菅政権から脱原発依存を引き継いでいるはずだが、会見ではその道筋は示さなかった。逆に夏季限定の再稼働を否定する中で、原発は重要な電源と強調している。従来方針からの後退と受け取られても仕方ない。
本来なら脱原発依存社会への工程表をもっと早く示すべきだった。その上で、それに向けて軟着陸させるために必要な、最小限の再稼働に協力を求めるのが筋である。
最悪レベルの事故を経験しながら、原発への依存度も原子力政策も事故以前に戻ってしまう。そんなことになれば、国民はますます民主党政権から離れて行くに違いない。
西日本新聞朝刊 2012/06/09付
社説:首相再稼働判断 不安に応えたと言い難い
定期検査のため運転を止めた原子力発電所の再稼働を認めるか。賛否両論がある。賛成、反対の理由も一様ではない。
すぐ稼働すべしと言う人もいれば、絶対反対の人もいる。原発が再稼働しなければ電力不足になる、電気料金が上がると言われて賛成する人もいるだろう。
どんな人が一番多いだろうか。何が何でも動かすなとは言わないが、国や電力会社が安全と言っても信用できない-。こう考えている人たちではなかろうか。
野田佳彦首相は、関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)について「『国民生活を守る』ために再起動すべきだというのが私の判断だ」と述べた。
理由は、首相がこれまで繰り返し説明してきたことと基本は変わらない。ただ、8日の記者会見では原発の必要性、重要性がより強調されたように感じた。
首相の判断理由は大きく二つある。一つは大飯3、4号機の安全は実質的に確認されていること、もう一つは原発の再稼働なしに日本社会は立ちゆかない、電力不足による混乱も懸念されることだ。
だから、国民生活を守るために再稼働を決断したのだ、と野田首相は言う。
しかし、どうだろう。再稼働に反対、慎重な人々は、これまでの国の説明で納得していたか。そうではなかろう。
原発を含め完璧、絶対安全なものはない。その通りだ。だから、最新の科学的知見などを常に反映させて原発の安全性向上に努める、と首相は力を込めた。
だが、どうやって原発事業者に言うことを聞かせるか。権限は、組織は、能力は、国にどれだけ備わっているのか。
首相会見の直前まで、東京電力福島第1原発事故を検証する国会の事故調査委員会(黒川清委員長)で、東電の清水正孝前社長が参考人として証言していた。
清水前社長といえば、福島第1原発からの全員撤退を指示し、それを知った菅直人前首相が激怒、政府と東電本店の対立で現場を混乱に陥れたなどとされた。
事故調で、清水前社長は全員撤退は考えてなかったと重ねて否定した。委員からは諸外国には最後まで現場に残る職員のための退避場所を施設内に設けている原発もあるが、どう思うかと聞かれた。
過酷事故対策で考えてはどうかとの質問に、清水前社長は「検討の余地はあるかもしれない」などと言葉を濁した。そして、2007年の新潟県中越沖地震を教訓に福島第1原発に免震重要棟を建設したことが生きたことを強調した。
関電大飯3、4号機には過酷事故で最後に残る職員のための退避所、本部機能を果たす免震重要棟はあるだろうか。
事故調での政府や東電の要人の証言を聞くと、事故から徹底的に学ぼうとしているのか、当事者の意識は本当に変わったのか、疑問を抱かざるを得ない。
そもそも福島第1原発事故は誰の責任か。政府も東電も責任を押し付け合って、どうもあいまいだ。そこで安全や責任を言っても安請け合いに聞こえるが。
南日本新聞 2012年 6/10 付
社説:[原発再稼働発言] 安全性に不安を残した
関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)をめぐり、野田佳彦首相は記者会見し「再稼働すべきだというのが私の判断だ」と述べ、再稼働に向けたプロセスを進めていくことを明らかにした。
首相は、夏場の電力需要のピークを目前にひかえ「今原発を止めてしまっては日本の社会は立ちゆかない」「国民の生活を守る。これが国論を二分している問題に対し、私がよって立つ唯一絶対の判断の基軸だ」と、決断に至った理由を説明した。
再稼働が順調に進めば、危惧されていた夏場の電力不足が大幅に緩和される。しかし、原発の安全性に対する国民の不安が解消されていないなかでの再稼働は、電力不足を回避するための見切り発車と言わざるを得ない。
東京電力福島第1原発事故を受け、政府は定期検査中の原発の運転再開手続きを厳格化した。地震や津波への耐性を調べる安全評価(ストレステスト)の1次評価を導入し、科学的な知見から安全性を確認した上で、首相と関係3閣僚の協議で、政治的に再稼働を最終決定する手順を決めた。
しかし、安全性への不信感は根強く、首相と閣僚との協議であらためて再稼働を判断する安全基準を4月に策定、大飯原発3、4号機はこの基準も満たしたとして地元に再稼働を要請した。
ところが、説明に訪れた細野豪志原発事故担当相らと会談した西川一誠福井県知事は「再稼働が必要だと、首相が国民に直接表明することが安心につながる」と述べ、野田首相が自ら中長期的な原発の必要性を説明するよう求め、同意の判断を先送りしていた。
西川知事の発言の背景には、再稼働反対の世論が強いなかで、安易に同意すれば批判が集中しかねないという懸念がある。それは政府も同様で、当初は首相の会見に難色を示していた。
だが、3、4号機が再稼働してもフル稼働するまでには約6週間かかり、7月2日に始まる今夏の節電要請期間には間に合わない。再稼働がさらに遅れて、計画停電に追い込まれるような事態に陥れば批判の矛先が政府に向かうことも予想され、知事の要求に応える方が得策と判断したのだろう。
首相は会見で、福島第1原発事故のような地震や津波が起きても事故は防止できると、安全性を強調した。だが、共同通信社の最新の世論調査では、不安が残るとして再稼働に反対する声が過半数を超えている。当面の再稼働はやむを得ないとしても、「安全性に問題はない」という説明に納得する国民はどれほどいるだろうか。
沖縄タイムス 2012年6月10日 09時57分
社説:[大飯原発再稼働]時計の針を元に戻すな
この国は何も変わっていない。関西電力大飯原発(福井県おおい町)再稼働に向けた野田佳彦首相の8日の記者会見は、そう認識せざるを得ない象徴的局面となった。
野田首相は「国民生活を守る」ことが、再稼働の「唯一絶対の判断の基軸」と言明した。真の意味で国民生活を守るのであれば、福島第1原発事故の検証や新たな安全基準体制の確立、脱原発への道筋の提示を先に行うのが筋だろう。ところが、肝心の規制や体制刷新に向けた取り組みに関しては「国会での議論が進展することを強く期待している」と言及するのがやっと。「期待」しか表明できない状況で「国民生活を守る」と胸を張る心理は理解不能だ。
論理矛盾はまだある。現時点で「政府の安全判断の基準は暫定的」と認めつつ、「夏場限定の再稼働では国民の生活を守れない」と恒常的な稼働に踏み込んだ。支離滅裂としか言いようがない。
首相会見は福井県の西川一誠知事の求めに応じるかたちで行われた。が、政府が再稼働を急ぐ本旨は立地自治体への配慮ではない。原発の必要性をアピールしたい電力会社をはじめ、節電や停電による経済への影響を懸念する財界の要請に応えるのが主眼だ。
周辺自治体や国民を対象にした世論調査では依然、再稼働に慎重な意見が根強い。首相自らが「国論を二分している」と認める状況下で、一方の主張に政府が全面的に肩入れするのは民主主義の根幹にかかわる問題である。日本の民度が問われる由々しき事態ともいえる。
何よりも財界の「経済至上主義」の論理を優先する。これこそ原発再稼働の本質であり、戦後の日本人に骨の髄までしみこんだ価値観である。
この概念は沖縄にも大きな影響を及ぼしている。安全保障分野における日米基軸が日本経済繁栄の土台である、との思考が刷り込まれているのは官僚やマスメディア幹部だけではない。政財界はじめ国民に広く共有されている。
米主導のTPP(環太平洋連携協定)論議でも表面化したように、日本では「日米基軸」と「経済発展」が不可分のものと認知されている。そうした社会が続く限り、日米基軸路線も沖縄の米軍基地も日本側が主体的に転換を図ることは全く期待できない。
だが今、原発問題が分水嶺(れい)となり、日本経団連に代表される財界の論理が、一般国民の利益や幸福追求と合致していない、と感じる人も着実に増えている。
経済発展は物質的な豊かさをもたらすが、精神的な豊かさや幸福には必ずしも直結しない。脱原発や節電はこれまでのライフスタイルだけでなく、人々の価値観や人生観に転換をもたらす機会にもなり得る。原発に固執し続けることは、再生可能エネルギー分野など新たなビジネスの芽をつむことにもなる。
会見で首相は「原発は重要な電源」と言い添えている。これでは脱原発に本気で取り組む気はない、と吐露しているようなものだ。民意に背を向け、時計の針を元に戻すのは政治の自己否定である。
琉球新報 2012年6月10日
社説:原発再稼働表明 神話の盲信を繰り返すのか
野田佳彦首相が原発の必要性を明言し、関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)を再稼働すべきだと表明した。政府は福井県知事の同意を経て、16日にも再稼働を正式決定する方向という。
あらためて確認しておきたいが、福島第1原発事故は、経済性を優先させ、安全神話を盲信したことによる人災にほかならない。
電力不足の危機感をあおり、安全をないがしろにしたまま再稼働に踏み切ることは、フクシマと同じ過ちを繰り返すに等しい。首相は原発事故の教訓を今こそ思い起こすべきだ。
大飯原発は若狭湾の活断層の密集地帯に位置し、敷地内を走る軟弱な断層(破砕帯)に関する再調査の必要性が指摘されている。原子力安全委員会の班目春樹委員長は7日の会見で「原子力安全・保安院で評価をしっかりやり直すべきだ」との見解を示している。
首相は会見で「福島を襲ったような地震や津波が起きても事故は防止できる」と断言したが、専門家でもない首相が安全と言い切れる根拠は一体何なのか。政府は、大飯原発の安全基準を暫定的なものと認めた。それでいて、最優先されるべき安全が確保されたとするのには無理がある。
本来ならば、福島第1原発事故の詳しい経緯や原因を究明した上でなければ、新たな安全基準など設定できないはずだ。しかも原子力の安全規制を担う新組織さえも発足していない段階での再稼働は、あまりに拙速で無謀すぎる。
安全確認は、あくまでも専門家による科学的かつ客観的判断に委ねるべきだ。共同通信の6月の世論調査でも、国民の半数が再稼働に反対している。再稼働の強行は政治主導のはき違えであり、国民にとって新たな悲劇そのものだ。
原発がひとたび制御不能になれば、事故の影響は長期間かつ広範囲に及ぶ。損害賠償や事故の処理費用はあまりに膨大だ。崩壊したのは安全神話だけでなく、他の電源に比べ安上がりという「コスト神話」も雲散霧消した。首相は「安価で安定した電気の存在は欠かせない」と述べたが、原発には当てはまらないのは明らかで、全く説得力がない。
国会の原発事故調査委員会の黒川清委員長は「国家の信頼のメルトダウン(炉心溶融)が起こっている」と表現した。首相はこの言葉を深く胸に刻み、再稼働を思いとどまるべきだ。
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脱原発依存はどこへ、理解得られぬ、あまりに前のめりである
不安に応えたと言い難い、「結論ありき」否めない、強引な論理承服できぬ
「アリの一穴」許してはならぬ、時計の針を元に戻すな、神話の盲信を繰り返すのか
野田首相の大飯原発再稼動表明に対する各紙の主張は、批判が圧倒的だ。
<社説・論説>
朝日)首相会見―脱原発依存はどこへ(6/9)
読売)大飯再稼働へ 国民生活を守る首相の決断(6/9)
産経)大飯原発と首相 再稼働の決断を支持する(6/9)
東京)「大飯」再稼働会見 国民を守るつもりなら(6/9)
北海道新)大飯再稼働 理解得られぬ首相説明(6/9)
東奥日報)国民の理解得られるのか/首相の再稼働判断(6/10)
岩手日報)首相の再稼働宣言 「結論ありき」否めない(6/9)
新潟日報)大飯原発再稼働 あまりに前のめりである(6/9)
福井新聞)大飯再稼働 首相会見 ぶれない原子力政策必要(6/9)
京都新聞)首相再稼働決断 強引な論理承服できぬ(6/9)
神戸新聞)再稼働表明/首相の脱原発方針どこへ(6/9)
山陽新聞)原発再稼働 首相会見では不安拭えぬ(6/10)
愛媛新聞)大飯原発再稼働 「アリの一穴」許してはならぬ(6/7)
徳島新聞)大飯再稼働表明 安全性欠いた拙速判断だ(6/10)
高知新聞)【大飯再稼働】脱原発依存はどうなった(6/10)
西日本新聞)首相再稼働判断 不安に応えたと言い難い(6/9)
南日本新聞)[原発再稼働発言] 安全性に不安を残した(6/10)
沖縄タイムス)[大飯原発再稼働]時計の針を元に戻すな(6/10)
琉球新報)原発再稼働表明 神話の盲信を繰り返すのか(6/10)
以下引用
朝日新聞 2012年6月9日(土)付
社説:首相会見―脱原発依存はどこへ
原発政策を主題にした野田首相の記者会見は初めてだった。それが、こんな内容なのか。
関西電力の大飯原発3、4号機を再稼働させる。停電が起きれば、命の危険にさらされる人が出る。動かさないと電気代も上がる。企業や家庭に影響が出る。空洞化も加速する。首相は脅さんばかりに語った。
さらに原発が重要な電源であり、夏場の限定稼働では国民生活を守れないと踏み込んだ。
いったい、「脱原発依存」はどこへ行ったのか。
根幹となる中長期的な原発政策について、首相は国民に選択肢を示し、「8月をめどに決めたい」としただけだ。
当面、最低限の再稼働が必要と判断したとしても、中長期の方向性については揺らぎがないことを国民に説明するのが、首相がとるべき姿勢だ。
新たな原発はつくらない。40年たった原発は廃炉にする。これまでさまざまな場面で首相や関係閣僚が言及してきた脱原発依存への具体的な道筋には一切触れなかった。
これでは、政権の原発政策が大きく転換したと受け止められても仕方がない。
会見は、福井県の西川一誠知事に押し切られた形で設けられた。地元同意の条件として、原発の必要性を首相が直接、国民に説明するよう求めたからだ。
背景には、原発が減ることで地元の経済や財政が回らなくなることへの危機感がある。
しかし、原発への依存度を減らしていくことは政権の大方針だったはずだ。そこに言及すると、地元が納得しないというなら、再稼働のほうをあきらめるべきだろう。
福井県の姿勢にも、首をかしげたくなる。
昨春以降、政府に新たな安全基準を示すよう求め、足元の安全対策を見直させた意義は大きい。これまで、さまざまな苦労を抱えながら、原発との向き合い方を模索してきた自負があることもわかる。
だが、新たな原子力規制機関ができるまでの監視態勢に、福井県以外の周辺自治体を同列に参加させないことを再稼働の条件にする、とまでなると、度を超している感は否めない。
京都や滋賀の知事をはじめ周辺自治体が原発の安全性確保に関与を求めるのは当然だ。
両府県や大阪府・市が求める期間限定の再稼働についても、西川知事は「スーパーの大売り出しではない」と切って捨て、首相も一顧だにしなかった。
野田さん、本気で原発を減らす気があるんですか。
(2012年6月9日01時31分 読売新聞)
大飯再稼働へ 国民生活を守る首相の決断(6月9日付・読売社説)
野田首相が福井県にある大飯原子力発電所3、4号機の再稼働に強い決意を表明した。
首相は記者会見で「原発を止めたままでは、日本の社会は立ちゆかない。原発は重要な電源だ」とし、「国民の生活を守るため再稼働すべきというのが私の判断だ」と強調した。
首相が原発を日本に欠かせない電源だと、明確に位置づけた意味は大きい。当面のエネルギー政策で、「原発ゼロ」の路線は回避される方向となろう。
福井県の西川一誠知事は、再稼働に同意する条件として、首相が原発の必要性を国民に説明することを求めていた。福井県が了承する環境は整ったと言える。
福井県とおおい町が早期に再稼働に同意し、手続きが加速するよう期待したい。
もちろん再稼働には、原発の安全確保が重要である。政府は全国の原発で津波対策を実施し、大飯原発はストレステスト(耐性検査)も終えた。原子力安全委員会がテスト結果を了承している。
大飯原発を再稼働する際は、経済産業副大臣らが現地に常駐する特別な監視体制も敷く。
首相は「実質的には安全は確保されている」と述べた。政府が1年以上をかけて安全対策を講じてきた点は、評価すべきだ。
西川知事が同意を見送っている背景には、周辺自治体の姿勢への反発があるのだろう。
特に、福井県から電力供給を受ける大阪市の橋下徹市長や、京都府と滋賀県の知事が提案している「夏季限定」の再稼働案を、西川知事は強く批判している。
電気が足りない時期だけ原発の運転を求めるのは、ご都合主義にほかならない。この点について首相が、「夏限定の再稼働では国民生活は守れない」と述べたのは、妥当な認識である。
政権党である民主党の国会議員117人が、「今年の夏は節電で乗り切る」などとして、首相らに再稼働への慎重な対応を求める署名を提出したことも問題だ。
首相は「突発的な停電が起これば、命の危険にさらされる人もいる」とした。産業空洞化や雇用喪失への懸念も示した。なぜこうした危機感を共有できないのか。
署名には、小沢一郎元代表のグループなど、消費増税に反対する議員が多く加わっている。
社会保障と税の一体改革を進める政権を、からめ手からゆさぶる狙いだろう。目の前の電力危機を回避する再稼働を、政争の具にしてはならない。
産経新聞 2012.6.9 03:10
【主張】大飯原発と首相 再稼働の決断を支持する
野田佳彦首相の明確かつ力強い決意表明だ。
関西電力大飯原発3、4号機の再稼働問題で記者会見した首相は「原発を止めたままで日本の社会は立ちゆかない」と語った。原発を国家と国民生活を支える不可欠な電源と位置づけた上で、福井県の理解を求め、今後も原発の利用を続ける姿勢と覚悟を国民に示した。
「国民の生活を守る責務」から自らの責任で大飯原発再稼働が必要とした首相の決断を高く評価したい。エネルギー安全保障や電気料金値上げ抑制にも欠かせない。福井県はこの決意を受け止め、再稼働の早期実現に向けて政府とともに全力をあげてもらいたい。
今夏の関電管内の電力需給は再稼働なしに猛暑を迎えた場合、14・9%の電力不足に陥る。関電は7月から利用者に15%以上の節電を求め、余力がある中部や中国など隣接電力会社の融通も仰ぐ。計画停電も準備する非常事態だ。
こうした節電や融通頼みでは、電力の安定供給などおぼつかない。地元の産業界からも「工場の操業計画が立てられない」など不安の声が上がっている。このままでは工場の海外移転などで一段の産業空洞化を招く恐れがある。
首相会見は、西川一誠福井県知事が「国民向けメッセージ」を求めたのに応じたもので、「関西を支えてきたのが福井県とおおい町だ。敬意と感謝の念を新たにしなければならない」と訴えた。
期間限定の再稼働を求める橋下徹大阪市長らに対しても「夏場限定の再稼働では、国民生活は守れない」とクギを刺した。大阪市などに批判的だった西川知事にも、首相の姿勢は伝わったはずだ。
今後の焦点は、県側の対応だ。停止期間が長かった大飯原発は運転調整に時間が必要で、本格的な再稼働までに1基あたり3週間程度かかる。県原子力安全専門委員会や県議会、西川知事は残る手続きを早急に進めてほしい。
また政府は、大阪市などを含む関西広域連合や、再稼働を拒む反対勢力などに対しても毅然(きぜん)として説得する姿勢が求められる。
菅直人前首相の浜岡原発停止要請など場当たり的な政策は、原発と長年共存してきた立地自治体の不信感を招いた。首相会見を自治体の信頼を回復する契機とすべきだ。大飯だけでなく、東京電力柏崎刈羽など他の原発の速やかな再稼働につなげる必要がある。
東京新聞 2012年6月9日
【社説】「大飯」再稼働会見 国民を守るつもりなら
国民の生活を守るため、野田佳彦首相は関西電力大飯原発3、4号機を再稼働させるというのだろうか。国民は知っている。その手順が間違っていることを。このままでは安心などできないことを。
これは原発再稼働への手続きではなく、儀式である。
西川一誠福井県知事の強い要請を受け、従来の発言をなぞっただけ、西川知事にボールを投げ返しただけではないか。誰のための記者会見だったのか。いくら「国民の生活を守るために」と繰り返しても、国民は見抜いている。そして儀式には、もううんざりだ。
国民は、首相の言葉をどのように受け止めたのだろうか。
「スケジュールありき、ではない」と首相は言う。しかし、長期停止した原発のフル稼働には六週間ほどかかる。そのような再起動の手順を踏まえた上で、小中学校が夏休みに入り、電力需要が本格的に高まる前に原発を動かしたいという、“逆算ありき”の姿勢は変わっていない。
経済への影響、エネルギー安保など、原発の必要性は、執拗(しつよう)に強調された。だが国民が何より求める安全性については、依然置き去りにしたままだ。
「実質的に安全は確保されている。しかし、政府の安全判断の基準は暫定的なもの」という矛盾した言葉の中に、自信のなさが透けて見えるようではないか。
会見で新たな安全対策が示されたわけでもない。緊急時の指揮所となる免震施設の建設や、放射能除去フィルターの設置など、時間と費用のかかる対策は先送りにされたままである。これでどうして炉心損傷を起こさないと言い切れるのか。どんな責任がとれるのか。首相の言葉が軽すぎる。
未来のエネルギーをどうするか。脱原発依存の道筋をどのように描いていくか。次代を担う子どもたちのために、国民が今、首相の口から最も聞きたいことである。それについても、八月に決めると先送りしただけだ。
「関西を支えてきたのが福井県であり、おおい町だ」と首相は言った。言われるまでもなく電力の消費者には、立地地域の長い苦渋の歴史を踏まえ、感謝し、その重荷を下ろしてもらうためにも、節電に挑む用意がある。ともに新たなエネルギー社会をつくる覚悟を育てている。そんな国民を惑わせ、隔ててしまうのは、その場しのぎの首相の言葉、先送りの姿勢にほかならない。
北海道新聞 2012年6月9日
社説:大飯再稼働 理解得られぬ首相説明(6月9日)
関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)について、野田佳彦首相が記者会見を開いて「国民生活を守るため再稼働すべきだ」と表明した。
首相は関西の夏場の電力事情が深刻なことを強調し、「今原発を止めてしまっては日本社会が立ち行かない」とする一方、「福島第1原発事故時のような地震や津波が起きても事故を防止できる」と断言した。
これで国民が安全だと納得できるだろうか。
首相が再稼働の根拠としたのは、経済産業省原子力安全・保安院がまとめたあくまで「暫定的」な安全基準である。
しかし、すでに国民の信頼を失っている保安院がわずか2日間でまとめた基準を適用したところで、再稼働の根拠にはなり得ない。首相の判断は見切り発車にすぎない。
国際的な基準に照らしても不十分だ。
国際原子力機関(IAEA)は異常事態の防止に加え、過酷事故が起こり得ることを前提に、その防災対策を求めている。
大飯原発では、事故時の拠点となる免震棟や、放射性物質の大量放出を防ぐフィルター付き排気装置の設置予定は3年後だ。
「想定外」への備えができていない状態で、事故の可能性を否定して再稼働に突き進むとすれば、「安全神話」と五十歩百歩である。
首相は中長期的には原発依存度を可能な限り減らす方針も示したが、再稼働に前のめりの姿勢は「脱原発依存」の本気度を疑わせる。
原発の寿命を原則40年とする規制法がまだ審議中とはいえ、当事者能力のない保安院が、稼働40年を迎える関電美浜原発の運転延長を了承した。こんなことが起きるのも政権の軸足が定まらないからだ。
政府は4月に大飯原発の再稼働を妥当と判断して以来、福井県の説得に乗り出したものの、同意を得られずにきた。
このため、福井県側の「首相が国民に直接、表明することが安心につながる」という求めに応じ、急きょ首相が会見で再稼働の必要性を訴えたのが実態だ。
いわば会見は福井県の顔を立てる手続きだった。これでは首相の言葉は、原発の安全性に不安を抱く国民の胸に届かない。
新たな規制機関として、ようやく原子力規制委員会が設立される見通しとなった。なぜ、規制委の発足を待てないのか。しかも福島の事故原因の解明は道半ばである。
再稼働の是非を問う前に、首相はこうした国民の根本的な疑問に誠実に向き合うべきだ。
東奥日報 2012年6月10日(日)
社説:国民の理解得られるのか/首相の再稼働判断
「国民生活を守るため、再起動すべきだというのが私の判断だ」。関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働をめぐり野田佳彦首相が8日、記者会見で表明した。
福井県の西川一誠知事が同意の条件として、首相に原発の重要性を表明するよう求めていたのに応えた。西川知事は前向きに評価している。今週中にも地元同意を経て、首相や関係閣僚らが最終判断する段取りのようだ。
再稼働の判断理由として首相は、関電管内の電力不足を指摘し、計画停電や電気料金高騰による生活や経済への影響回避を強調。「今、原発を止めてしまっては日本の社会は立ち行かない」と訴えた。
安全性については「福島第1原発事故の時のような地震や津波が起きても事故は防止できる」と述べたものの、政府が安全の根拠とする判断の基準は暫定的なものだ。設置が遅れている新たな安全規制組織が発足すれば規制を見直すという。「暫定的な安全」で再稼働に向かい、国民に安心しろというのは無理があろう。
首相の説明は、福井県のメンツを立てただけで国民に向けたメッセージとしては不十分だ。「再稼働ありき」が見え見えで、国民の理解は得られるのか。
暫定的な基準に従い政府が是認した大飯原発の安全対策では、事故を想定した放射性物質除去フィルター設置や緊急時の指揮拠点となる免震棟建設などは3年後だ。新規制組織ができるまで監視体制も急ごしらえで組織する。不完全な基準や対策で再稼働へ向かうことになる。見切り発車と言わざるを得ない。
一方で首相は「(関西の自治体が求める)夏場限定の再稼働では国民の生活は守れない」としたほか、エネルギー安全保障などを挙げ「原発は重要な電源」と踏み込んだ。
原発を新増設せず原則的に運転40年で廃炉にする-。首相や政府関係者がこれまで示している原子力政策の方向性だ。中長期的な「原発ゼロ」も視野に入る方向性だが、原発の重要性をめぐる首相の言葉は「脱原発依存」から後退するような印象を受ける。
検討中のエネルギー政策見直しについて首相は、政府として選択肢を示し国民の議論を経たうえで「8月をめどに決めたい」と述べるにとどめた。「脱原発依存」へ向けあらためて方針を明確にするべきだ。
福島の事故は実質的に収束していない。事故の原因究明を踏まえた新たな知見を反映した安全基準づくりもこれからだ。短期的には原発を再稼働させるのが現実的な道としても、安全性の確保が大前提なのはいうまでもない。
首相の説明は原発の必要性ばかりが強調された感が強く、国民の不安には応え切れていない。福島の事故を経験し原子力に対する国民の目は厳しくなっている。片や原子力行政も信頼を失っている。再稼働は国民の理解を得ながら慎重に進めるべきだ。
岩手日報 (2012.6.9)
論説:首相の再稼働宣言 「結論ありき」否めない
関西電力大飯原発(福井県)の再稼働に向け、野田佳彦首相は8日、記者会見で必要性を表明した。事実上の再稼働宣言であり、西川一誠福井県知事の判断を経た上での実施が確実となった。
説明や手続きをめぐって二転三転したとはいえ、一連の動きを見ると、政府が「再稼働ありき」の立場だったことは明らかだ。この間、一方では、政府が将来の原発政策に確たる指針を持っていないことも露呈した。
再稼働は、東京電力福島第1原発事故が実質的には収束せず、原因究明も途上の中で進められた。事故の教訓を真に受け止めるなら、再稼働にはより慎重になったはずだ。
それでも突き進んだ動きには、電力需要が急増する夏場を控え、電力不足を招きかねないという危機感が反映されている。当初は反対論も強かった関西広域連合が容認する形となった理由だ。
いわば「急場をしのぐため、やむなし」の意味合いがある。このため、同連合内からは「夏限定」の提言も出されている。
一方、今回の再稼働には、国や電力業界の思惑も透けて見えるようだ。大飯原発を突破口にして、次々に容認していくのではないかということだ。
そう思うのは、福島事故後に「脱原発」の世論が高まっている中で、原発政策について現政権が明確な姿勢を示していないからだ。
政府のエネルギー・環境会議がまとめた中間報告案は、「エネルギーの安全保障や多様化と両立できる形で低減の道筋を具体化すべきだ」などと有用性をにじませる内容となっている。
2030年の原発比率の選択肢には、福島事故前より高い「35%」が一時、検討段階で入っていた。結局は除外されたが、定まらない政策を示す一例といえる。
そんな中での再稼働の方向。大飯原発について安全確保に万全を期すと同時に、きちんとした再稼働の基準づくりや規制組織の構築を急ぐ必要がある。
再稼働をめぐっては、責任の所在についての問題も浮かび上がった。国、地方、電力会社それぞれの関係だ。例えば原発立地の「地元」とはどこなのか。法的根拠を含め検討する必要が浮上した。そもそも、「判断のボール」を国と福井県とが押し付け合ったのは、あいまいな責任体系だからではないか。
ようやく民主、自民、公明の3党が7日、原発の安全規制や防災対策に関し、立地自治体や周辺自治体と国、電力事業者との連携を法的に位置付けることにした。自治体の意見をきちんと聞きながら進めてほしい。
新潟日報 2012年6月9日
社説:大飯原発再稼働 あまりに前のめりである
野田佳彦首相が8日夕、記者会見し、関西電力大飯原発3、4号機を再稼働すべきとの判断を示し、国民に理解を訴えた。
首相はその理由として「国民の生活を守るため」を挙げ、「いま原発を止めてしまっては日本の社会は立ち行かない」「夏場だけの問題ではない。わが国のエネルギー安全保障からしても原発は重要電源」とまで踏み込んだ。
発言は、菅直人前首相が提起し、自身の首相就任時に継承を明言した「脱原発依存」路線から大きく転換したものといえる。
福島第1原発事故以来、安全神話は崩壊し、国、電力会社の信頼も地に落ちた。国民の間に「脱原発」のうねりが起きている。
首相も会見で、原発に関し「国論を二分する問題」と何度も口にした。にもかかわらず「(再稼働しても)福島のような事故は起きない」「結論を出すのが首相としての私の責務。国政を預かる者として責務の放棄はできない」と大見えを切った。
あまりに前のめりである。
いまだ福島原発事故は収束していない。事故原因の検証も道半ばだ。新たな原子力規制体制も発足していないのである。
与党民主党内部からさえ江田五月元参院議長ら117人もの議員が「再稼働の再考」を求め、署名を官邸に提出している。
加えて地質の専門家から、大飯原発の敷地内の「破砕帯」が近くの活断層と連動して動き、地表がずれる可能性が新たに指摘されてもいる。
こうした中で「国民の生活を守るために再稼働する」という政治判断に正当性はあるのか。法的にも疑問符が付く。
首相の国民向け会見は、福井県の西川一誠知事が大飯原発再稼働に同意するための条件として求めていたものだった。
当初政府側はこれに難色を示していたのだが、一転、首相が応じたのは、それだけ切羽詰まっていたということだろう。
原発の再稼働には約3週間が必要とされる。夏場の電力ピーク時に間に合わせるには、いまがぎりぎりのタイミングだった。
首相は「電力不足が数%なら節電努力すれば何とかなるが、15%という需給ギャップは昨年の東日本でも経験のない高いハードル」と強調してみせた。
また「突発停電となれば命の危険もある。働く場もなくなる。計画停電でも日常生活は大きく混乱する」と語った。まるで恫喝(どうかつ)だ。仙谷由人元官房長官の「真っ暗な生活になる」「日本は集団自殺」発言と同じではないか。
さらに問題なのは、8月にも決まるわが国の新たなエネルギー政策について、会見での質問に答える形で「(電源の)ベストミックスを考えたい」と言及している点だ。
これでは、はなから原発に何割かを依存すると言っているに等しい。
安全より経済を優先して福島の事故は起きた。そのことを首相はすっかり忘れたようだ。
福井新聞 (2012年6月9日午前7時49分)
【論説】大飯再稼働 首相会見 ぶれない原子力政策必要
野田佳彦首相は記者会見し、関西電力大飯原発3、4号機の再稼働(福井県おおい町)について「国民生活を守るために再稼働すべきだというのが私の判断だ」と表明。夏場の電力確保だけでなく、エネルギー安全保障や日本経済に不可欠と述べ、関西を支えてきた福井県やおおい町に「敬意と感謝の念」を新たにした。
「首相が国民に向けてはっきり責任を持って言うべき」とする西川知事の厳しい注文に言葉を尽くして応えた形だ。知事は同意に向けた障害はなくなり慎重に所定の手続きを進める。政府は再稼働準備を急ぐだろう。
国会では首相の政治生命が懸かる社会保障と税の一体改革関連法案の修正協議が始まり、緊迫した状況で異例の会見だ。だがこれも国の地元に対する配慮の欠如、原子力政策をめぐる政府の一貫性のなさに起因していることを肝に銘じるべきだ。
福井県は基幹電源に位置づける原発に40年余り貢献してきたはずだが、東京電力福島第1原発事故で政府、国民世論も「脱原発依存」に一変。地元は置き去りにされてきた。政府の姿勢を明確にし、リーダーシップが問われる首相の「覚悟」を求めるのは当然のことであろう。
県は原発事故以来、緊急安全対策や安全基準を求め、原子力安全専門委員会で問題点を詳細に検証、その都度、追加対策を求めてきた。県が必要とした「特別な監視体制」は、福島の事故を教訓に、原子力災害対策特別措置法に基づく現地対策本部長に副大臣を充て、即応可能な体制を取るためである。
こうした県の対応は、ひたすら安全確保の実効性を追求してきたものだ。ぶれることなく立地自治体としての責任遂行に努めてきたといえる。
それに比べ政府や消費地である関西圏の対応はあまりに問題が多く、身勝手ではないか。「安全は不十分」と政府を批判しながら、電力不足の回避へ再稼働を「容認」し、かつ「夏場限定」を要求する関西の首長。当事者能力が疑われる言動は世論を背景にし、結果として立地地域悪者論にすり替えている。
野田首相は4日の内閣再改造後の会見で「原発は日本の発展に必要」と強調した。同じ趣旨の発言をしてきており、政府は「これで十分」と先を急いだ。それでもなお踏み込んだ発言を要求する西川知事の主張は想定外だったのだろう。しかし、これまでの会見は国民に正対したものではない。原発に対する不信や不安感が強まり、明確なメッセージが必要だった。
知事は「長期的にはエネルギー源の多角化が検討されるが、中期的には原発は引き続き必要」としている。政策面でどう反映されるのか、首相は「8月をめどにエネルギー政策を決める」としか述べなかった。
夏限定の再稼働を明確に否定した首相だが、関西圏をどう説得するのか。本県の「要望丸のみ」で会見したものの、腰の定まらない民主党政権、言葉は丁寧だが具体性に欠ける首相の姿勢に大きな変化は見られない。
世論調査では再稼働反対が依然50%を超えている。再稼働の同意はリスクが大きい。原発は地元を支えてきたが、今後進むも退くもいばらの道だ。国が地元と同じ「現場感覚」を持たない限り、地域は苦難にさらされたままである。
[京都新聞 2012年06月09日掲載]
社説:首相再稼働決断 強引な論理承服できぬ
関西電力大飯原発(福井県おおい町)3、4号機について、野田佳彦首相がきのう記者会見し、再稼働させることを表明した。
首相は「全ての電源を失っても炉心損傷に至らない」と安全が確保されていることを強調した。計画停電や電気料金高騰による国民生活への影響を避けるべきと、再稼働を判断した理由を説明した。
再稼働を電力需要が高まる夏季に限定しないことも明言した。
その一方で、監視体制強化など京都、滋賀の両府県知事による提言や、関西広域連合が求めている安全性に関する声明への言及はなかった。安全性を判断した根拠について、明確な説明もなかった。
この状況で、再稼働に踏み切るのは納得がいかない。首相は「私の責任」を強調するが、万一の事故の際、どんな責任を取るつもりなのだろうか。
大飯原発の安全性について首相は「特別な監視体制を置く」と強調した。しかし、これまでに関電が行った対策の多くは応急的で、防潮堤や免震重要棟の設置にも着手できていない。安全性確保というには、あまりに根拠が乏しい。
事故が起きれば被害が及ぶ京滋からの要望に耳を傾けていないのも不安を増幅させる。
京都府の山田啓二、滋賀県の嘉田由紀子両知事は、「特別な監視体制」に両府県を加えることや、原発から半径30キロ圏の緊急防護措置区域(UPZ)に入る京滋の法的位置づけなどを求める再提言を行ったばかりだ。
しかし、首相が考える「地元」に京滋は入っていないようだ。
そもそも、きのうの会見は「再稼働には首相の明確な意思表示が必要」とする西川一誠福井県知事の要請で行った。再稼働に向け、立地自治体の理解の取り付けに躍起になっている姿が見て取れる。
事故が起きた際、立地自治体だけでなく、京滋住民をどう避難させるかの対策もこれからだ。
住民の命より経済活動が優先なのだろうか。事故は起きないから避難計画は後回しというのでは、福島第1原発事故の教訓は何ら生かされていないことになる。
野田首相は、安価で安定した電力の供給がなければ「日本は立ちゆかない」と述べた。本来は別々に考えるべき安全性と電力供給の問題を混同させている。
安定した電力供給が必要なら、火力発電の増強など打てる手があったはずだ。供給努力を怠ったまま2度目の夏を迎え、強引に再稼働させるのは、あまりに国民を見くびっていないか。
政権から再稼働のお墨付きを得た形の福井県も判断が問われる。県内にさまざまな声があることは分かるが、県民の命が本当に守れるのか。ここは熟慮が必要だ。
神戸新聞 (2012/06/09 09:07)
社説:再稼働表明/首相の脱原発方針どこへ
「国民生活を守る上で再稼働は欠かせない」「夏場限定と考えない」「引き続き、原発は重要なエネルギー源」
関西電力大飯原発3、4号機の再稼働問題で、野田佳彦首相はきのう、あらためて再稼働の必要性を表明した。
先月末の関係閣僚会合で首相は「私の責任で判断する」と語った。立地自治体の福井県やおおい町にボールを渡し、同意を取り付ける考えだった。しかし、西川一誠知事は納得しなかった。
政府は一方で、安全性の判断基準を「暫定的な基準」とし、周辺自治体は再稼働を「限定稼働」ととらえる。知事は状況にあいまいさを残したままでは同意できないとし、「再稼働の必要性を、首相が国民に直接表明することが安心につながる」と再度、ボールを投げ返した。
それに応える首相の再表明だった。
首相はまず、計画停電や突発停電で国民生活や経済活動に混乱が生ずる事態は避けなくてはならないとし、再稼働は必要と語った。その際、非常用電源が失われ、炉心が損傷することはないと専門家会議などで確認したとし、福島のような事故は起きない、と断言した。
「限定稼働」は、きっぱり否定した。夏場の再稼働だけでは小売店や中小企業などへの影響が大きく、国民生活を守れないという理由だ。大飯以外の再稼働については、新しい規制組織の下で個別に安全性を判断して決めるとした。
さらに、原発の将来について、中長期の依存度を減らす努力を重ねるとする一方で、引き続き欠かせないエネルギー源だと強調し、8月をめどに政府のエネルギー戦略をまとめると語った。
原発維持を強くにじませる内容といえる。首相が就任時に表明した「脱原発依存」方針は、どこへいった。
首相表明を受け、知事らは来週中にも県原子力安全専門委員会を開き、同意手続きに入る。結果を踏まえて、政府が最終判断する。
再稼働で、これだけ紆(う)余(よ)曲折したことを政府は重く受け止めねばならない。
京都府と滋賀県は、4月に発表した七つの提言への政府回答を踏まえ、新たな7項目の提言を行った。政府や関電の対応が遅れている項目ばかりだ。民主党内では100人超の議員が現状での再稼働に反対する意思を明確にしている。
首相が国民にどう説明しようと、「見切り発車」の印象は免れない。
再稼働問題は立地県と周辺自治体に埋めがたい溝を残して最終局面に入る。原子力政策の汚点にしてはならない。
山陽新聞 (2012/6/10 9:32)
[社説]原発再稼働 首相会見では不安拭えぬ
関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)について野田佳彦首相が記者会見を開き、国民生活を守るために再稼働が必要だとの考えを明らかにした。首相に意見表明を求めていた福井県の西川一誠知事はこれを受けて再稼働に同意するとみられる。東京電力福島第1原発事故後、初めてとなる原発再稼働は国論を大きく二分したまま実現へ向かいそうだ。
首相は、計画停電や電力料金の大幅な高騰といった日常生活への悪影響を避け、豊かな暮らしを送るために安価で安定した電気の存在が欠かせないと訴えた。安全性に関しては、福島原発事故の時のような地震や津波が起きても事故は防げるとした。橋下徹大阪市長が提案した期間を限っての再稼働は「夏場限定では国民の生活は守れない」と明確に拒否した。
「脱原発依存」を掲げている野田政権だけに違和感が拭えない。
そもそも安全確認の柱となっているのは、安全評価(ストレステスト)の1次評価や、経済産業省原子力安全・保安院がまとめた暫定的な安全基準である。福島の原発事故の検証を十分に反映したものではない。それをもって事故防止を確約したことには疑問があり、原発の安全に対する国民の不安を解消する内容とは言い難い。
会見は、首相が国民に再稼働が必要だと直接表明するよう西川知事が求めたものだ。背景にあるのは、原子力政策に対する政府の姿勢にぶれが目立つことへの福井県側のいらだちである。
菅直人前首相の「脱原発」宣言の後、枝野幸男経産相は「原発は重要な電源だ」と述べた直後に「あくまで短期の話だ」とした。政府の軸足が定まらぬ中、福井県には再稼働に同意した場合、いずれ政府にはしごを外され、批判の矢面に立たされかねないと懸念したのだろう。野田首相は会見で「国の責務」を強調した。地元へ配慮を示したのだろうが、国民の目には再稼働に向けた帳尻合わせの作業に映ったのではないか。結論ありきの姿勢だと批判されてもやむを得まい。
経産省は今夏、新たなエネルギー基本計画をまとめる。原子力発電が占める割合を「0%」「15%」「20〜25%」などとする選択肢が示されているが具体的な作業はこれからだ。福島の原発事故の原因究明もなお調査の途上にある。再稼働はこれらの検討材料がそろった上で判断するのが筋だ。とりあえず今夏の急場を再稼働でしのぐにしても、夏季限定で動かす案を検討すべきではないか。
新たな原子力規制組織の発足も遅れている。不信や不安を抱えたままで再稼働に踏み込めば将来に禍根を残すのは必至だ。他の原発の運転についても、原子力政策のビジョンや安全に関する最新の知見を踏まえて慎重に見極める姿勢が求められる。
愛媛新聞 2012年06月07日(木)
社説:大飯原発再稼働 「アリの一穴」許してはならぬ
政府は関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働方針を固めたが、地元同意の判断は先送りされた。福井県の西川一誠知事が野田佳彦首相に原発の必要性を国民に説明するよう求めたためだ。
政府が原発政策でいまだに地元の信頼を得ていない実態が露呈したと言えよう。そもそも東京電力福島第1原発事故の十分な究明がされておらず、新しいエネルギー政策や安全対策も示さないまま、しゃにむに再稼働へと進む政府に拙速のそしりは免れない。
そうした中で、地元だけが安易に再稼働に同意すれば「悪者扱い」される懸念があろう。西川知事は同意の前提としてエネルギー政策における原発の位置づけの明確化と、再稼働に反対する大消費地関西の説得などを政府に迫っていた。
しかし、「脱原発」か「基幹電源に位置づける」かの国の根幹に関わるエネルギー政策の具体的戦略はまだ示されていない。新たなエネルギー基本計画に盛り込む2030年時点の原発比率についても検討段階だ。なのに原発の位置づけの明示など、どだい無理な話と言わねばなるまい。
野田首相は先月末の関係閣僚会議で「原発は引き続き重要」と発言、知事向けのメッセージを込めたが、空々しいばかりだ。何を根拠にそう言い切れるのか。知事が求める国民向けの説明をしたとしても、説得力を持ち得ない。
首相は「私の責任で判断する」と言うが、万一の場合、どのような責任をとるつもりなのか。首相退陣や議員辞職などで済む問題ではないことを指摘しておきたい。
一方、関西広域連合は再稼働に反対し、政府に安全最優先の要求を突きつけておきながら、事実上の容認姿勢に転換した。再稼働を望まない一般市民の頼みの綱だっただけに、残念でならない。
夏場の電力不足を乗り切る「期間限定」の稼働が条件との立場だが、政府は時限的稼働を否定している。いったん稼働すれば、再び止めるのは至難となろう。甘い対応と言わざるを得ない。
政府は早くも大飯原発の再稼働を想定し、7月から関電管内で求める節電目標を引き下げる検討に入った。本来原発稼働ゼロを前提にした節電目標であり、脱原発依存社会への道筋を見通すはずだったものだ。企業や住民の節電意識が緩むのは避けられまい。
ようやく新たな原子力規制組織発足の見通しが立ったとはいえ、新しい安全基準や再稼働のルールづくりはこれからだ。経済優先でなし崩し的に再稼働を進める手法は看過できない。これを許せば、同様のやり方が大飯原発以外の原発にも広がる「アリの一穴」になりかねない。
徳島新聞 2012年6月10日付
社説:大飯再稼働表明 安全性欠いた拙速判断だ
野田佳彦首相が、関西電力の大飯原発3、4号機を再稼働させる必要性を訴えた。立地自治体である福井県の西川一誠知事の要請に応じて異例の会見を行い、再稼働方針をあらためて表明した格好だ。
首相は「今、原発を止めてしまっては日本の社会は立ち行かない」と強調し、国民生活を守るために大飯再稼働への理解を求めた。3、4号機の運転再開後は、特別な監視体制で安全性を確保するという。
会見を通しての首相説明は、原発再稼働に向けたこれまでの政府方針と変わらないものだった。逆に、国のエネルギー源として原発の重要性に言及することで、立地自治体に配慮する姿勢をにじませた。
国民の暮らしに直結する深刻な電力不足を解消するためとはいえ、安全性への懸念が拭い切れないままでの方針表明である。原発の運転再開に不安を抱く国民にとっては、到底納得できない首相会見だったと言わざるを得ない。
大飯再稼働をめぐっては、電力消費地の関西広域連合が5月末に事実上の容認姿勢を示し、福井県の地元同意を残すだけとなっていた。
だが、今後の原子力政策をめぐる政府方針が一向に明確にならないことから、中長期的な原発の必要性を訴える福井県が不信感を募らせ、同意手続きをストップさせていた。
大飯3、4号機が運転を再開しても、フル稼働するまでには6週間程度が必要だ。再稼働に向けた調整が長引けば、かつてない規模の節電を迫られている関電管内の電力需要期に間に合わなくなる。
関西圏の節電対策が目標をクリアできず、計画停電などの事態に陥れば住民生活に重大な影響が及ぶ。福井県に早期の同意を促すためには、首相が掲げる「脱原発依存」方針との整合性を欠いても、会見で原発の重要性を表明する必要に迫られたというわけだ。
首相会見を受け、止まっていた福井県の同意手続きはきょうから動き始めるという。順調に進めば、首相は今週後半にも大飯再稼働を正式決定する見通しだ。
とはいえ、現時点で大飯原発の安全性を担保しているのは、首相と関係3閣僚が4月に定めた暫定的な安全基準に過ぎない。さらにその基準がクリアできたといっても、東京電力福島第1原発で事故対応の最前線になった免震棟など、これから整備を始める施設や対策は数多い。
緊急時の住民避難も明確に定められていないのが実情である。特別な監視体制で臨むと説明されても、安心できるものではないだろう。
原発の安全規制を一元的に担う新たな組織はいまだ発足しておらず、原発事故の原因究明もなされていない中での性急な動きである。四国電力の伊方原発や北海道電力の泊原発など、今後なし崩し的に運転が再開されていくのではないかと懸念する住民は少なくない。
政府が今全力を挙げるべきは、原発事故で地に落ちた原子力行政への信頼を取り戻すための体制づくりであり、脱原発依存に向けた国の新たなエネルギー政策を一日も早く策定することである。その順序を取り違えた拙速な原発再稼働は、これ以上許されない。
高知新聞 2012年06月10日08時01分
社説:【大飯再稼働】脱原発依存はどうなった
民主党政権は「脱原発依存」の旗を降ろしてしまったのか。そう首をかしげざるを得ない、一昨日の野田首相の会見だった。
関西電力大飯原発3、4号機(福井県)の再稼働をめぐり、首相は「国民生活を守るため再起動すべきだ」と訴えた。焦点の安全性については、「福島第1原発事故時のような地震や津波が起きても事故は防止できる」と強調した。
だが、もし今、大飯原発で事故が起きたとしたら、その対策は十分とは言えないのではないか。
福島の事故では「免震事務棟」が作業拠点となったが、大飯にはない。放射性物質を除去するフィルター付きベント(排気)設備や恒久的な非常用発電機もなく、防潮堤のかさ上げも終わっていない。それらは2013~15年度に完成する予定だ。
大飯原発の敷地内を走る軟弱な断層が近くの活断層と連動し、地表がずれる恐れがあることも指摘されている。事実なら、原発の立地場所として不適格となる可能性がある。
これでどうして安全だと胸が張れるのだろう。
むろん、短期間で施せる事故対策には限りがあろう。仮にできたとしてもそれで絶対安全とはなるまい。
福島の事故の検証作業にもまだ多くの時間がかかる。それが済むまで原発は一基たりとも動かさない、というのも現実的ではないかもしれない。
だからといって、大飯原発の安易な再稼働を国民が認めていないことは、世論調査で5~6割近くが反対していることからも分かる。
大事なのは現状でできる限りの安全対策を急ぐことだ。同時に、最新の知見で分かった断層リスクなどに関しては、発足予定の原子力規制委員会がしっかり評価し直す。そんな取り組みの積み重ねこそが、国民の安心感を醸成することにつながるはずだ。
説明不足
一方で、夏の電力需要期が迫る中、供給不足とそれに伴うリスクをどう最小限に抑えるかも大きな課題だ。
首相は「今、原発を停止すると日本社会は立ち行かない」と主張した。だが、政府や関電の今夏の需給見通しを疑問視する声は根強い。
電力を湯水のように使う現代社会をもっと根本から見直せば、供給余力はまだまだあるのではないか。患者や高齢者ら弱者にしわ寄せを及ぼすことなく、夏場を乗り切れる余地は本当にないのか。
政治判断で再稼働を決めるのなら、国民のこうした疑問に政府は丁寧に答えなければならない。しかし、その責任を十分果たしてきたとは言い難い。
説明不足はエネルギー政策の中長期的な展望についても同じだ。
野田首相も菅政権から脱原発依存を引き継いでいるはずだが、会見ではその道筋は示さなかった。逆に夏季限定の再稼働を否定する中で、原発は重要な電源と強調している。従来方針からの後退と受け取られても仕方ない。
本来なら脱原発依存社会への工程表をもっと早く示すべきだった。その上で、それに向けて軟着陸させるために必要な、最小限の再稼働に協力を求めるのが筋である。
最悪レベルの事故を経験しながら、原発への依存度も原子力政策も事故以前に戻ってしまう。そんなことになれば、国民はますます民主党政権から離れて行くに違いない。
西日本新聞朝刊 2012/06/09付
社説:首相再稼働判断 不安に応えたと言い難い
定期検査のため運転を止めた原子力発電所の再稼働を認めるか。賛否両論がある。賛成、反対の理由も一様ではない。
すぐ稼働すべしと言う人もいれば、絶対反対の人もいる。原発が再稼働しなければ電力不足になる、電気料金が上がると言われて賛成する人もいるだろう。
どんな人が一番多いだろうか。何が何でも動かすなとは言わないが、国や電力会社が安全と言っても信用できない-。こう考えている人たちではなかろうか。
野田佳彦首相は、関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)について「『国民生活を守る』ために再起動すべきだというのが私の判断だ」と述べた。
理由は、首相がこれまで繰り返し説明してきたことと基本は変わらない。ただ、8日の記者会見では原発の必要性、重要性がより強調されたように感じた。
首相の判断理由は大きく二つある。一つは大飯3、4号機の安全は実質的に確認されていること、もう一つは原発の再稼働なしに日本社会は立ちゆかない、電力不足による混乱も懸念されることだ。
だから、国民生活を守るために再稼働を決断したのだ、と野田首相は言う。
しかし、どうだろう。再稼働に反対、慎重な人々は、これまでの国の説明で納得していたか。そうではなかろう。
原発を含め完璧、絶対安全なものはない。その通りだ。だから、最新の科学的知見などを常に反映させて原発の安全性向上に努める、と首相は力を込めた。
だが、どうやって原発事業者に言うことを聞かせるか。権限は、組織は、能力は、国にどれだけ備わっているのか。
首相会見の直前まで、東京電力福島第1原発事故を検証する国会の事故調査委員会(黒川清委員長)で、東電の清水正孝前社長が参考人として証言していた。
清水前社長といえば、福島第1原発からの全員撤退を指示し、それを知った菅直人前首相が激怒、政府と東電本店の対立で現場を混乱に陥れたなどとされた。
事故調で、清水前社長は全員撤退は考えてなかったと重ねて否定した。委員からは諸外国には最後まで現場に残る職員のための退避場所を施設内に設けている原発もあるが、どう思うかと聞かれた。
過酷事故対策で考えてはどうかとの質問に、清水前社長は「検討の余地はあるかもしれない」などと言葉を濁した。そして、2007年の新潟県中越沖地震を教訓に福島第1原発に免震重要棟を建設したことが生きたことを強調した。
関電大飯3、4号機には過酷事故で最後に残る職員のための退避所、本部機能を果たす免震重要棟はあるだろうか。
事故調での政府や東電の要人の証言を聞くと、事故から徹底的に学ぼうとしているのか、当事者の意識は本当に変わったのか、疑問を抱かざるを得ない。
そもそも福島第1原発事故は誰の責任か。政府も東電も責任を押し付け合って、どうもあいまいだ。そこで安全や責任を言っても安請け合いに聞こえるが。
南日本新聞 2012年 6/10 付
社説:[原発再稼働発言] 安全性に不安を残した
関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)をめぐり、野田佳彦首相は記者会見し「再稼働すべきだというのが私の判断だ」と述べ、再稼働に向けたプロセスを進めていくことを明らかにした。
首相は、夏場の電力需要のピークを目前にひかえ「今原発を止めてしまっては日本の社会は立ちゆかない」「国民の生活を守る。これが国論を二分している問題に対し、私がよって立つ唯一絶対の判断の基軸だ」と、決断に至った理由を説明した。
再稼働が順調に進めば、危惧されていた夏場の電力不足が大幅に緩和される。しかし、原発の安全性に対する国民の不安が解消されていないなかでの再稼働は、電力不足を回避するための見切り発車と言わざるを得ない。
東京電力福島第1原発事故を受け、政府は定期検査中の原発の運転再開手続きを厳格化した。地震や津波への耐性を調べる安全評価(ストレステスト)の1次評価を導入し、科学的な知見から安全性を確認した上で、首相と関係3閣僚の協議で、政治的に再稼働を最終決定する手順を決めた。
しかし、安全性への不信感は根強く、首相と閣僚との協議であらためて再稼働を判断する安全基準を4月に策定、大飯原発3、4号機はこの基準も満たしたとして地元に再稼働を要請した。
ところが、説明に訪れた細野豪志原発事故担当相らと会談した西川一誠福井県知事は「再稼働が必要だと、首相が国民に直接表明することが安心につながる」と述べ、野田首相が自ら中長期的な原発の必要性を説明するよう求め、同意の判断を先送りしていた。
西川知事の発言の背景には、再稼働反対の世論が強いなかで、安易に同意すれば批判が集中しかねないという懸念がある。それは政府も同様で、当初は首相の会見に難色を示していた。
だが、3、4号機が再稼働してもフル稼働するまでには約6週間かかり、7月2日に始まる今夏の節電要請期間には間に合わない。再稼働がさらに遅れて、計画停電に追い込まれるような事態に陥れば批判の矛先が政府に向かうことも予想され、知事の要求に応える方が得策と判断したのだろう。
首相は会見で、福島第1原発事故のような地震や津波が起きても事故は防止できると、安全性を強調した。だが、共同通信社の最新の世論調査では、不安が残るとして再稼働に反対する声が過半数を超えている。当面の再稼働はやむを得ないとしても、「安全性に問題はない」という説明に納得する国民はどれほどいるだろうか。
沖縄タイムス 2012年6月10日 09時57分
社説:[大飯原発再稼働]時計の針を元に戻すな
この国は何も変わっていない。関西電力大飯原発(福井県おおい町)再稼働に向けた野田佳彦首相の8日の記者会見は、そう認識せざるを得ない象徴的局面となった。
野田首相は「国民生活を守る」ことが、再稼働の「唯一絶対の判断の基軸」と言明した。真の意味で国民生活を守るのであれば、福島第1原発事故の検証や新たな安全基準体制の確立、脱原発への道筋の提示を先に行うのが筋だろう。ところが、肝心の規制や体制刷新に向けた取り組みに関しては「国会での議論が進展することを強く期待している」と言及するのがやっと。「期待」しか表明できない状況で「国民生活を守る」と胸を張る心理は理解不能だ。
論理矛盾はまだある。現時点で「政府の安全判断の基準は暫定的」と認めつつ、「夏場限定の再稼働では国民の生活を守れない」と恒常的な稼働に踏み込んだ。支離滅裂としか言いようがない。
首相会見は福井県の西川一誠知事の求めに応じるかたちで行われた。が、政府が再稼働を急ぐ本旨は立地自治体への配慮ではない。原発の必要性をアピールしたい電力会社をはじめ、節電や停電による経済への影響を懸念する財界の要請に応えるのが主眼だ。
周辺自治体や国民を対象にした世論調査では依然、再稼働に慎重な意見が根強い。首相自らが「国論を二分している」と認める状況下で、一方の主張に政府が全面的に肩入れするのは民主主義の根幹にかかわる問題である。日本の民度が問われる由々しき事態ともいえる。
何よりも財界の「経済至上主義」の論理を優先する。これこそ原発再稼働の本質であり、戦後の日本人に骨の髄までしみこんだ価値観である。
この概念は沖縄にも大きな影響を及ぼしている。安全保障分野における日米基軸が日本経済繁栄の土台である、との思考が刷り込まれているのは官僚やマスメディア幹部だけではない。政財界はじめ国民に広く共有されている。
米主導のTPP(環太平洋連携協定)論議でも表面化したように、日本では「日米基軸」と「経済発展」が不可分のものと認知されている。そうした社会が続く限り、日米基軸路線も沖縄の米軍基地も日本側が主体的に転換を図ることは全く期待できない。
だが今、原発問題が分水嶺(れい)となり、日本経団連に代表される財界の論理が、一般国民の利益や幸福追求と合致していない、と感じる人も着実に増えている。
経済発展は物質的な豊かさをもたらすが、精神的な豊かさや幸福には必ずしも直結しない。脱原発や節電はこれまでのライフスタイルだけでなく、人々の価値観や人生観に転換をもたらす機会にもなり得る。原発に固執し続けることは、再生可能エネルギー分野など新たなビジネスの芽をつむことにもなる。
会見で首相は「原発は重要な電源」と言い添えている。これでは脱原発に本気で取り組む気はない、と吐露しているようなものだ。民意に背を向け、時計の針を元に戻すのは政治の自己否定である。
琉球新報 2012年6月10日
社説:原発再稼働表明 神話の盲信を繰り返すのか
野田佳彦首相が原発の必要性を明言し、関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)を再稼働すべきだと表明した。政府は福井県知事の同意を経て、16日にも再稼働を正式決定する方向という。
あらためて確認しておきたいが、福島第1原発事故は、経済性を優先させ、安全神話を盲信したことによる人災にほかならない。
電力不足の危機感をあおり、安全をないがしろにしたまま再稼働に踏み切ることは、フクシマと同じ過ちを繰り返すに等しい。首相は原発事故の教訓を今こそ思い起こすべきだ。
大飯原発は若狭湾の活断層の密集地帯に位置し、敷地内を走る軟弱な断層(破砕帯)に関する再調査の必要性が指摘されている。原子力安全委員会の班目春樹委員長は7日の会見で「原子力安全・保安院で評価をしっかりやり直すべきだ」との見解を示している。
首相は会見で「福島を襲ったような地震や津波が起きても事故は防止できる」と断言したが、専門家でもない首相が安全と言い切れる根拠は一体何なのか。政府は、大飯原発の安全基準を暫定的なものと認めた。それでいて、最優先されるべき安全が確保されたとするのには無理がある。
本来ならば、福島第1原発事故の詳しい経緯や原因を究明した上でなければ、新たな安全基準など設定できないはずだ。しかも原子力の安全規制を担う新組織さえも発足していない段階での再稼働は、あまりに拙速で無謀すぎる。
安全確認は、あくまでも専門家による科学的かつ客観的判断に委ねるべきだ。共同通信の6月の世論調査でも、国民の半数が再稼働に反対している。再稼働の強行は政治主導のはき違えであり、国民にとって新たな悲劇そのものだ。
原発がひとたび制御不能になれば、事故の影響は長期間かつ広範囲に及ぶ。損害賠償や事故の処理費用はあまりに膨大だ。崩壊したのは安全神話だけでなく、他の電源に比べ安上がりという「コスト神話」も雲散霧消した。首相は「安価で安定した電気の存在は欠かせない」と述べたが、原発には当てはまらないのは明らかで、全く説得力がない。
国会の原発事故調査委員会の黒川清委員長は「国家の信頼のメルトダウン(炉心溶融)が起こっている」と表現した。首相はこの言葉を深く胸に刻み、再稼働を思いとどまるべきだ。
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